コンテナガレージ

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ガレットの日3-1

 ランチの盛況ぶりは,、好調な発進で予見された。目につきやすい店の真正面にフランス料理推進普及協会の田所が電信柱と同化したみたいにまっすぐ垂直に佇んでいる。以前に店長に対して異常な関心を抱いた人物がバレンタインの時期に出現していたことを思い出した。そういえばあの時以来、怪しい人物の姿を見かけない、と館山はピザ釜を覗く観光客と窓越しに視線が合って、笑うでもなく、織のなかにいる動物たちを憂いた。

 自分は絶対にそういったことはしない、二人、複数だからできること、やってしまえることを一人のときに置き換え、実行に移す自信がないのであれば、私は非礼を棚に上げてまじまじと窓の内部を覗く行為は控えるのだろう。館山は手首で汗を拭いてピザ釜のバットの向きを変える。これは均等に火を通すためである。

「店長、外の人を何とかなりませんかね。かなり気持ち悪いんですよね。お客さんも、噂してます」小川がパン屋で見かける薄い黄土色の容器を抱えて、開口一番、不満を漏らす。

「監視はやっぱり対象者に知れない方法で行うのがベストだろうね。けれどあれでも、だれも間違った行動はしないよ」

 小川は出来上がったガレットを紙に包んで容器に並べる。口はせわしなく動く。「うちの店だけピンポイントに狙っているとは思いません?だってですよ、路面店だから、外から監視できるのであって、ピル内の店舗を外から監視するわけにもいかない、ましてランチ時に長時間滞在することも難しい……」

「安佐っ!早く、お客さんが待ってる」国見がドアを開けて催促。

「はいっ、いまいきますよぉ」

「やはり、個人的な恨みでもあるんですかね」館山が取り出したガレットを一人分に切る。小川のおしゃべりが移ったみたいだ、何か会話をしなくては、そういう気分に駆られた。

「僕に、店に?」背中で店長は話した。

「やっかみかもしれません。この一帯の行列はもう名物になりつつあります。言われました、うちの店の行列だったら、ビラ配りでお客を集めなくてもいいから楽でしょうね、と」

「へえ、誰が言っていたの?」

「前の店の同僚です」

「ふうん。ビラなんて配っているからお客が来ないという論理に考えを向けないのがそもそも間違いだよね」

「店長は口コミだけで、集客を望めるという確信があったんですか?」

「ビラは誰に配っているの?不特定多数に配っているよね、人を選んで配っているのは見たことがないよ。まあ、ある程度の年齢や性別を区別して配っているようだけれども、興味のない人へそれを無理やり渡しても、有益な情報として価値を見出すように思えなかった」