コンテナガレージ

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ガレットの日3-2

「会社員と制服姿の女性が多いですよね、うちの店に来るお客は。つまり、一定の範囲内で昼食や夕食を食べる人たちが多いという判断だった」館山は店長の意見をまねる、トレース、沿うようにきいた。

「同じ時間に同じ場所、しかもメニューは毎日変わる、それをお客は変化として、安定とともに欲する要求の一つだと考えた。だから、開いていたこの店は改装せず設備と外観を流用したということだね。帰る場所、いつもの場所はお客が食事を取る飲食店の一つの候補にさえ挙がっていれば、今日はあの店は何を出すのだろうか、そういったギャンブル性と、裏切られても安定したいつもの味が待ち構えてる」

 振り返ってみると、冒険、あたらしいメニューの翌日は定番のメニューを作っていた。館山リルカは料理についての知識と経験は高校卒業後、学校に入らずにイタリア料理店の門を叩き、習得。そこで二年が経って、落ち着いている自分、受け身で困難を待ち受ける自分を再認識した。料理長や先輩たちの手技を見て盗む指導法を彼女は学んだ。彼らの作るものはおいしい料理と思った。しかし、どこか納得しない腑に落ちない事柄が膨らんでいた。

 料理法や調理法は正解なのだろうけれど、料理人たちの手際のよさに調理過程の意味が吹き飛んでいるように感じた。あまりにもそれはひどく淡い情報なのに、手際のよさが際立ち、大勢のお客を短時間で裁くために殺されていたのだ。

 この店を選んだのは偶然だった。求人情報誌を買いに街に出たついでにこの店の前を通りかかり、店長が業者らしき人物と店先で話しこんでいるところに私は出くわして、自分でも不思議なくらい積極的に初対面の店長に話しかけたのだ、店を始めるのか、と。……店長は従業員を雇う手間が省けた、と即時了承。ホール係の国見は既に採用が決まっていたようだった、あとから聞いた話である。私でなくても良かったはずだ、そうに違いない、間違いない。しかし、だけど、私があそこで声をかけて、詳細を訪ねなかったら私は採用されていなかった、今頃はまた別の店で同じことをぐるぐる繰り返していたはず、それは言い切れる。

 今日のメニューだって斬新とまでは言わないけれど、独特なセンス。しかも、不条理な申し出を受けてしまう度量の広さ。料理はお客のための料理である。店長が良く言っている。味付けは環境がすべて関連し合っている。味や食材、製法の捜索も重要である。ただし、あくまでも驚きやインパクトのある味は一瞬でしかない。毎日食べることをあらかじめ前提に料理を作れば、おのずとランチに適した味に仕上がる。奇抜さは入らない、変わってなくてもいい、条件はお客が食べるかどうか、手に取るか。 

 館山は店長の言葉を反芻しては、噛み砕いた。

 出窓を男性が叩いた、ずっとこちらを見張っていた人物だ。館山は店長のファンと認識している、彼女は昨日の出来事を聞かされていなかった。

「店長、外のお客さんが呼んでますけど」

「手が離せないよ」

「て・が・は・な・せ・ま・せ・ん」口を広げて窓越しに伝えた。男は中に入ってもいいか、指差し。小川が気になって振り向いたが、行列を裁くのに必死。「中に入ってもいいかって、聞いてますけど、あの人知り合いですか?」

「知り合いではない、とは言い切れないか。うん、顔は知ってるよ。名前は忘れちゃったけどね」