「殺人の参考人聴取が目的ではありません」私の考えが読まれている、国見はきゅっと背筋を伸ばした。席に着く前に店員に種田がコーヒーを注文している。
店内を見渡し見ると、国見たち以外はいない。貸切状態である。刑事の音声は抑え目に、アクセルワークのように一定の踏み込みで音量を調節する。
「実はですね、自宅から発見された手帳にあなたが勤める店についてのかなり詳細な情報、個人的な情報が書き込まれていた。ここ最近で誰かにつけまわされていると感じたことはありませんか?」正面に座った刑事は鈴木と名乗った。
「いいえ、まったく。店長目当ての不審とまでは言えなくても、遠くから見守るような人は常にいますから」
「ファンということですか?」
「ええ、まあ。女性のお客の大半はそうです。男性でも、もちろんそうですけど」
「どちらにも人気があるのかあ、一度会ってみたいものですねぇ」鈴木が嬉しげに頬を緩ませて、口は軽く開いた。
「これから会います」通路側、斜向かいの種田が厳しく言い放ち、続けた。「フェス、island nation in the far eastの主催者が頑なに川上謙二の情報提供を拒んでいます。これはフェスの最終的な完了は出店時に発生した電力の過剰使用、規則違反等の課金、罰金を支払い、出店者の入金を待って警察の照会に望みたい、とこちらでは睨んでいます」
つまり、主催側の落ち度を理由に出店者たちの支払い拒否を懸念している、ということだろう。しかし、何故それを私にそれを話すのか、館山は疑問を募らせる。
「ですから、その、私にどうして?知ってはいますけど、あまり関係のない人のように思う。もっと、親密なそれこそ奥さんとか恋人とかに聞くべきじゃないんですかね」国見は鈴木の視線をテーブルに見とめて、雑誌を閉じた。袋にしまう。テープが雑誌に張り付いた、焦りつつも慎重にはがす。
刑事たちのコーヒーがテーブルに並んだ。店員の離脱を待って会話が再開する。
「あなたはあなたが勤める店の店長に個人的行為を抱いていますか?」種田が針を通す正確さで国見の心臓を射抜いた。刻まれた記憶、出会い、会話、無意味な共有時間、空間、体温が想起されて、さっと血の気が引いて、さらに顔が赤く上気した。
「突然……、なんですか、その質問?」かろうじて片側の眉を上げて対処した。
「種田、お前聞き方がストレートすぎるだろう?」小声で鈴木が種田をたしなめる。しかし、種田はじっと館山を見続けている。
「事実か否か。それ以外は不必要、聞くに値しません。国見さん、お答えください」
「それが、事件との関連があるっていう証拠は?」
「これから調べます」