コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ガレットの日5-5

 時計を見て、国見は応える。「会場の視察に行った時に、偶然川上さんと会いました。通りかかったようでしたね、あっちは。私たちは取引先のパン屋からの正確な時間を計って、会場に着いたばかり。その後、休憩を挟んで帰る時に、会場へ入る車が一度、行き過ぎて戻ってきたその車に川上さんが乗っていた。店長と二人で話し込んでましたけど、離れた場所に移動したので会話の内容は感知してません」

「どういったやり取りが思い浮かぶでしょう?」種田は機械を思わせる。人形みたいな顔。

「想像で言え、と言うんですか?」

「はい。あくまでも参考です。当事者の勘が必要。本来は取り合わないのですが、物証、川上謙二に関する情報は手帳にしか残っていません。あまりにもその他、生きている人物からの通常の有益な情報が何一つ得られていない」

「独りが好きだったんですか、その人?」国見が想像の引っ掛かりを探す。もしかすると、かもしれない、あいまいな感覚を手探りで拾う。

「仕事相手ともフランクに、どちらかといえば話し好き、これが印象です。ただ、彼の内面、込み入った話は、誰も知りえない。仕事上の付き合いならばそういったことも良くあるでしょうし、彼は主催企業の社員ではありません、フリーで仕事を請け負っていました」

「あの人が店長の焼きそばパンを求めて、フェスへの出店が決まった」汲みにはフェス出店に至る経緯を辿った。「焼きそばパンはランチのメニューでたまたま従業員の提案で急遽本来作る予定だった料理を変更して、その日、店を開けた。ランチタイムが終わって、川上さんがやってきたそうです。彼は高額な出店料の支払いを無料すること条件に出店を願い出たそうです。三十万ほどですかね、かなり高額です。しかも、主催者側は当日の悪天候によるライブの中止に関した出展者側への返金には応じない、そういった内容が規約には書かれていて、出店は店やメニューの宣伝には不釣り合いに思えました。だから、特別の計らいだったんでしょうね、川上さんの提案は。でも、店長は最初から出店には反対でした。店はメディアの取材を断ってます、不特定多数のお客に知られる必要がないからです、だから店を会場に出すことにも反対だった。出店に傾いたのはよくわかりませんけど、川上さんと秘密裏に約束事を取り交わしたとは、思えませんね。他人に揺り動かされる人ではありませんから店長は。それに、会場に来るお客のほとんどは休みを利用した郊外、道外の住人。店の集客に繋がるとは思えない、まあ、私が想像しないことを店長は考えていたのかもしれません」