コンテナガレージ

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ガレットの日6-1

 鈴木は、書店ビルの出入り口の灰皿を目ざとく見つける。彼に従って種田は煙の吸引時間に付き合った。あまり好ましい環境とはいえないが、国見の証言をまとめるために歩行を避けられた良かった。沈黙、視界もある程度遮断して彼女は息を潜めるように外界と拒絶、音は聞こえるように取り計らう、一応隣の鈴木は先輩である。それなりの配慮か、種田は社会に染まる自分をみた。

「フランス料理促進普及協会がちらつく、一体どういった組織だ?」独り言のように鈴木は言葉を吐いた。国見の言葉に出たフランス料理促進普及協会なる団体は、川上謙二の周辺捜査に暇をもてあます二人の刑事が借り出されてから、方々で聞かれるワードであった。直接的に川上の死を連想、予感、関連を想像するまでに至らない、淡い期待、気体のように姿は見えてもその質量を持った実体を掴もうとすると手をすり抜けて、霧散する出来事がこれまでの捜査で続いた。川上謙二の自宅一階のテナントに入会の募集要項の張り紙、撤去されたフェス会場のゴミ箱から見つかる協会所属を証明する川上謙二の名が入った名刺、掛け持ちで担当していた今月下旬の野外ライブの協賛に名を連ねたフランス料理促進普及協会、無関係には思えない。あえて誘導している、そういったことも考えられる。しかし、誘導であるならば、逸らせた意識を反対に辿れば、警察の動きを誘導する人物、あるいは組織に出くわすだろう。種田はあえて泳がせていた。ただ、一向に情報の断片が漂うだけで、えさには食いついても糸が緩んだまま、漂う波は穏やか、荒い方が好みだろうか、傾向がつかめないでいた種田である。実験あるのみ。観測的なデータの収集に基づく捜査方針の変更は、鈴木との二人であるから、フットワークは軽い。鈴木の意見を蔑ろにするのではない、単独の捜査も鈴木ならば許可を与えると踏んでいるのだ。