コンテナガレージ

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ガレットの日6-4

「そう、それです。あれっ?刑事さんが知ってるってことは、有名な団体なのか、うん?」こめかみに指をあてて時代錯誤の仕草。

「いいえ。川上謙二の周辺で見かけた奇妙な名称です。彼が団体との関わりを持っていた、そう匂わせる程度。彼の死亡でクローズアップされただけかもしれません」

「ああ、なるほど。恋人と別れて一人になると、カップルが目に付くっていうヤツですね」

 店の従業員の偏差値は高いようだ、彼女は二人の接見で痛感した。

「事件についての口外は控えてください」種田は腰を上げて、お尻を払う。「無理にとは言いません、引き止めたのは任意ですので」

「フランス料理の協会って、実在すると思いますか?政治的な側面から料理の権利を他国で主張するには、経済大国の主要都市から地方の住民までを納得させる必要があります。日本一国だけを考えてもかなり人員が必要ですよね」

「おっしゃるとおり、信憑性に欠ける」

「ですよね」小川は組んだ両手で頭頂部を守る。「刑事さんは管轄外の仕事にまで借り出されてるようには、私はどうしても思えない。何か特別な命令でも受けているんじゃないか、もしくは管轄を跨いだ仕事が本来の役目なのかって思ってます。警察って、そんなに他の管轄に寛容だとは思えませんからね、だって、一つ調べるのだってどちらのどの部署のどこへに連絡を入れて許可を取る必要があるんですもんね」

「詳しいですね、警察内部の実に無益な面をおっしゃってる、一般的な人は知りえない事情ですよ」

「お店で働いてると、お客さんの会話で聞こえちゃうんです」えへっと、小川は取り繕う。

「管轄を跨ぐのは私の部署に仕事の依頼が極端に少なく、面倒なトラブルをはらんだ仕事がその大半であるため。自由に見えるのは、無駄を省いたからでしょう」

 一礼してから種田はベンチを離れて階段を上った。

 橋を歩いて、書店まで戻る。端末を取り出したが、画面を開いても着信履歴はない、上着に押し込む。

 ひっきりなしに車が一定方向へと流れる。北へ、南へ。方角は方位に頼り、太陽に頼り、時計の針にも頼るか。道路や標識、目印の建物が目的地までの距離感覚を上手に狂わせるのだろう。いいや、発進地からの経過時間と方角が走行位置を算出するか、計算をあえて投げだし、機械に任せる。計算の方法すらも忘れかけているのに。

 鈴木が三本目のタバコに手を付けたのを想像した。彼女が視界の端に捕らえた人物にはおそらく逃げられただろう。捕獲したら、私を呼び出すはずだ。まだ追いかけている可能性もあるにはあるが、見失った確率は六割強。鈴木の運動能力は未知数、まだお目にかかったためしがない。また、長距離という種目は外見では判断が難しい。追跡とは八割の速度維持、長尺が求められるのだ。だが、喫煙家の鈴木である。やはり追跡している確率は低いといえる。

 自転車を押す女性、ハンドル前の椅子に乗った子どもとすれ違う。ハイタッチを子どもは求めた。軽く触れる。女性は咎めることなく、子どもの無邪気さを笑ってください、微笑を浮かべてはにかむ。世界は一つ、わたしはあなた、女性の思想は違う、子どもを通じた世界が共通なのだ。自分を介在していない、子どもを利用しているだけ。

 空の端、電線の越えた先に浮かぶ。

 活躍の場を狙っていつか自分もと寝首を掻く準備、輝くように爪を研いでいる。

 子どもの奇声が聞こえた。

 自転車のハンドルを握る研いだ尖った爪が種田の脳裏にフラッシュバック、見落とした記憶が甦った。