コンテナガレージ

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ガレットの日7-1

 店を開けるため店長自らが、ドアに掲げたクローズのプレートをひっくり返す。ランチ時、正面ビル、右手の電柱に立っていた人物は消えていた。

 待てよ、店長は思い出す。

 見かけたのはフランス料理を敬愛する人物ではなかったように思う。まったくの別人。以前から店を監視するわかり易い視線とその姿を店長は感じ取ったが、人物の特徴を覚えてはいなかった。あまりにも不要な情報は取り入れない脳内の仕組みなのだ。しかし、無用なのにどうしてか店長は意識の引っ掛かりを不審を感じていた。いつもとは異なる。異なる、通常……認識の甘さか、それともデジャブに類する記憶のエラーか。立ち振る舞い、ただ立っているのだから似ているのは否めないが、果たして容姿、背格好は似ていたんだろうか。服装、性別、あるいはだた独りの人物が微妙に姿を変えていたからだろうか。天気も影響する、気温も。雨上がりも、時刻、そういった特徴的な夕方は顕著に不具合を起こすものだ、曖昧さが向き合う現実のコンタクトを和らげてくれる。

 うつむいた表情だったのか、館山が非現実の雰囲気を感じ取ってゆっくり厨房に戻る店長を目で追った。ディナーの仕込み、今日は若干寒さが戻って(戻ってという表現はついこれまで当然だった季節に由来する。肌寒さを感じるほどの気温低下。店長は無意識、館山が立つピザ釜の脇に移動した。狭い空間に二人が寄り添うような近さである。

「おうっとう、先輩、そこで一体、厨房の狭い空間で何をおっぱじめようと?」コックコートの腕をまくる小川が休憩から戻った第一声。

 館山はそっと、その場を動作音を出さないように離れ、囁いた。「見てわかんないの、いつもの考え事だよ」店長は料理、店の経営から細部、この店に関する取り決め、判断を店の中、厨房内で考える癖を持つ。

「誰がどう見ても、かなりいいムードでしたけどね、蘭さんに教えてあげようっと」

「馬鹿。余計なことしたら、休憩時間代わってやらない。ああ、決めた。あんたが悪いんだから。私が先にいつも入る。そしてあんたは、銀行に用事があっても、時間切れで無常になくなく、ATMから手数料を搾取されて引き出すんだ」