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今日は何の日?1-1

 川上謙二の死亡が世間に公表されて十日。不審な死を遂げた川上謙二の死因は解剖の結果、胸を圧迫された窒息死と判明した。情報が遅れたのは、種田と鈴木がO署の刑事だったため。当然に、管轄担当の警察が事件を調べる捜査権を持つが、複雑に絡み合う諸要因が事件発覚当初からその捜査を彼女たちに託していたため、情報提供の遅れが唯一、管轄担当の警察が主張できる古めかしい誇りであったのだ。

 死亡要因については長時間圧迫された痕跡は直接肌には認められなかった、とも記述されていた。

 種田は、鈴木が運転する助手席で川上の所属を誘うように匂わせた、S市で世間をにぎわせるフランス料理促進普及協会なる組織について思考をめぐらせる。川上は焼きそばパン協会という組織にも属していた、そちらへは彼の死亡後に尋ねていたが、これといって彼に関係する情報は得られなかった。組織自体も小さく、大々的な活動は行っていない。協会への入会も年会費と入会料の支払いで会員になれるらしい。こじんまりした事務所に一人だけの協会員。island nation in the far eastの参加にあわせての入会と種田は推測した。入会は今年の三月。ちょうど彼がフェスのフード担当に抜擢された時期と重なる。

「フランス料理協会とは無関係らしいな、怪しい団体は」鈴木が眠そうに口を押さえる。現時刻は早朝の七時。二人は出勤時間の前に捜査を済ませようと画策していたのだ。手を引け、という上層部の意向を、彼女たちの上司である熊田から二人は指示を受けていた。

「似ている、そういった効果を狙ったのかもしれません。必ず怪しさが漂えば、人が検索をかけます。該当する組織がフランス料理協会ならば、広告としては成立しています」

「マイナスの印象を与えるだろう、それだったら」

「織り込み済みですよ。うがった見方は、確信めいた考え方のように思えますけど、実際は各自の常識や植え付けられた理論に基づいた見解。対象を反対に見ていようとも見てることに変わりありません、狙いにそのときは取り込まれてる。また、さらにそこから対象者が意見の共感を得て、百八十度、意思を変えることになれば、もっとも強力な広告塔になるでしょう」

「大学で経済を学んでいた口か?」鈴木が皮肉を込めて訊いた。

「経済学は学びましたが、大学に通わなくても本を通読し、理解するための時間と労力を環境を変えず、定期的に摂取可能であれば、だれにだって理論の吸収はできてしまえます」

「そんなものかね」鈴木はクラクションを鳴らした、歩道から老人が飛び出して道路を横断したのだ。「年を重ねるほど、ルールを守らないね」

「安心しているのでしょう、避けてくれると」

「早朝に出かけることはなかったように思うけどね」鈴木は言った。

「熊田さんは許可を出していません」