コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

今日は何の日?1-3

「川上謙二という人をご存知ですか?」種田がタイミングをずらして柏木が心を開き始めた場面でもっとも訊きたい質問をぶつけた。しかし、相手はまったく動じない。二つの可能性、名前に聞き覚えがないか、名前は知らなくとも顔は知っているか。確かめる。「この方ですが?」

「……さあ、知らないわ。見たこともないわね」

「イベント会場の飲食店の誘致が仕事だったようです」鈴木が情報を付け加える。種田は柏木未来の変化を逃さずに、見入る。

「人ごみは好きじゃないの、それに日焼けもね。フェスにわざわざ貴重な休みを費やす人の気が知れない」

 目配せが二人の刑事に送られる、退散の合図、命令、指令、要求が視線に込められていた。

 心残り、後を引いて、家を購入した不動産会社の名前をかろうじてドアが閉める間際に聞き出し、二人は家を離れた。車中で鈴木が目的の場所をナビに入力する。種田は次の行き先を大まかに把握していた。前日に周辺の地理は頭に入れておくのが彼女である、彼女にとって記憶の出し入れは、デスクの引き出しにものを入れるのと同じなのだ。必要な書類だけを残し、不要な紙はくずかごに捨てられる。特異な才能でもない、彼女クラスの記憶の引き出しならば国立大学の学生ならば有している機能だ。ただし、彼女は特徴的に記憶のほとんど捨ててしまえる。後世大事にとっておく必要性を記憶に見出していない、なので、脳内は常にクリアな状態を保てている。そのため言動はいわゆる常識と思われる概念に彼女は反発する意見を提示するのだ、何のためらいもなく。

「収穫は今ひとつか、無駄足だったかな」

「そうでもありません」種田が反論した。

「おいおい、あの人が嘘をついてるって、言うのか?うーん、特に気になった言動は無かったように思うけどな」車は二車線の通りに復帰、星が丘という駅を目指す。駅前が目的地。

「ええ、嘘をついています、彼女」

「家の購入は納得しがたいけど、わざわざ買ったって嘘をつくだろうか」

「賃貸ならば内部の様子はオーナーに掛け合えば調べられる。しかし、所有者が彼女である場合、訪問の拒否を超える捜査の権限は発動しない」

「じゃあ、僕たちがやってくることを彼女は知っていたのかもしれないな」

「その可能性は大いにあります」

「今日は良くしゃべるな」

「仕事ですから」

「嘘っていうのは?」鈴木は発言の引っかかりを潰す、神経質な性格か、それとも車内という二人の空間が間を埋める作用を意識的に働かせたのか。

「川上謙二の仕事について私は単にイベントという表現しかしませんでした。イベントといえば、通常思い浮かべるのは地方のフェスティバルや球場や屋内施設を利用した子供向けのショーです」

「そういえば、彼女はフェスって言っていた」