コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

今日は何の日?2-2

「持って帰ります。二ブロック先ですから。それよりも、もう一軒店に寄りたいので、ここへ置かせてもらっても構いませんか、すぐに取りに戻ります」

「ああ、それは別に構わないよ。好きにしなさい」

「ありがとうございます」代金を支払い、領収書とお釣りを受ける。次の店は二つ隣に位置していた。店構えは変わらない。内部の様子も他の店と間口の広さが同じ。

 乾物屋である。

「いらっしゃい」白髪で短髪の男性が手をこねて声をかけた。店長は一瞥、店の内部に足を踏み入れる。荷物を持ってすれ違うにはかなりの慎重さを要する通路である。幸い、お客は彼だけ。もしかすると今日始めてのお客かもしれない。この市場は観光地としても有名な場所で、S駅から歩いて十分ほど、市内にはもう一つ場外市場に隣接する市場があるが、そちらは一駅離れた場所である。タクシー移動がメーンの観光客はほとんどそちらに流れる。

 ここは市民の利用が来客の三分の一を占める、土地に根付いたいわゆる市民の台所である。川を渡った先には大型のスーパーがあるのだから、足を伸ばさず頑なに品不足の店に通いつめるのは、高齢の人物、変化を嫌う人に限られる。昔ならば、台所の名称は当てはまっただろう、そろそろこういった言い回しも、時代とともに変えていくべきなのだ。縋っているとしか思えない。

 観光地というのは特徴的な店が少ないことで有名だ。その土地に価値があるのであって、店を目的としたお客の来店ではまったくない、もちろん、中には列を連ねる人気店もあるだろうが、観光地としてお客が集まる立地の中での生み出された集客である。店個人の力ではないのだ。

 店では、乾物はもちろん、香辛料も豊富だった。固形物では見たこともない粒の形状を保った香辛料、漢方の元が数多く取り揃えてある。店長はあまり食材や材料にこだわりを持たない、あえて持たないといってもいいだろうか。専門性を追求しない店のコンセプトで集客を集めることが店を始めたきっかけなのだ。

「探し物は、聞いたほうが早い」品数が豊富、多くのお客との取引のための言い方。機嫌の悪い、怒りっぽい人物が聞いたら、腹を立てるだろう。

「乾燥した豆は置いてありますか?」店長は素直に尋ねた。通り側に店の主人が、中に店長という立位置。

「大豆か?」

「いえ」意見ははっきりと伝えるべき。店長は棚に並ぶ袋詰めの豆を探す。「そうですね、なにがいいだろうか、グリンピースはあります?」

「待ってろ」脇にどけるように手を外側にかいて主人は脇を通って店の奥に消える。

 エアガンで使用する玉のように、ビニール袋に入った一回り小さな乾燥のグリンピースが手渡された。