コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

今日は何の日?2-4

 乾物屋の主人の見方は、歩いたそばからほろほろ零れ落ちる。引き返した店長は女主人に預けた二種の豆を受け取った。意識に上げたことはなかったが、電柱や照明灯には数々の広告が張られている。

 信号を待つ間にさまよわせた視線を持って、三箇所の広告を見つけた。その一つはフランス料理促進普及協会の案内であった。何気に見ている、ということに関してはテレビのコマーシャルと同一の効果だろうか、考える。しかし、考えることすら価値に上がらない情報とすぐに判断できた。

 信号を渡り、わざと渡りきらずに道路の挟まれた川を覗き込み、眺めた。足早に店長を追い越す会社への学校へのそれぞれの持ち場に向かう通行人が追い抜く。ものめずらしさに眺めて暇な奴だ、通行人の視線が無言でこちらに語っているようだった。それでも、店長は気に留める無益さをとっくに捨てている。視線はいつも恣意的で離れてしまえる都合のよさを備える、僕を見たことの証明にならないし、相手の考えもまたこちらにわかるはずもない。想像がすべて。悟ることはできるだろう、だけどそこまで限りあるエネルギーを彼らの無造作に振りまく視線にもたらすのは、アンフェアだ。受け手はどうしたって防御に徹するしかないのだから。

 橋を通過、店に荷物を置いた店長は再び外へ出た。川に戻る。まだ午前八時前。階段を下りる。川面が近くに見える、手が届く遊歩道に降り立つ。川に向いたベンチ腰を下ろした。ゆらゆらと、そしてきらきらと常に表情の変化をもたらす川の流れを見つめて、店長はめずらしく過去を想起した。一人で旅をした、まだランドセルを背負っていた頃のことだ。

 夏休みでもない通常の日に休みを言い渡され、行き先を決めるよう両親、主に母親に言われた。彼女の仕事の都合で学校を休むのは今回が初めてではなく、過去に何度か体験をしていたので、ショックや驚きといった動揺は待ち構えてやわらかく包んで暴れないように取り扱った。父親は数ヶ月前に一度家に帰ってきたきり顔をあわせていない。生きてはいるし、確実に父親も母親も僕の両親である。悲観という言葉はいつからか、平常に格下げ。 

 空港で下ろされた。クレジットカードと数十万円の入った財布が手渡される。言われるがまま、僕の首には面ファスナ付きの財布が提げられた。端末はポケットに一台と別契約のもう一台、さらに予備のバッテリィーが、リュックに詰め込まれている。緊急時に使用するように、言い付けられていた。母親はタクシーから降りなかった。

 メーターが僕に言い聞かせる間に料金が上がった。