鈴木は種田一人を不動産屋の前に残し、数分前に尋ねた柏木未来の自宅に引き返していった。店の前に長時間立つには不自然な住宅街の静けさ、車社会の町並みは、歩行者にとりわけ、ただそこでその場所に居座ることも拒否しているようだ。
種田は道路を渡って、巨大なベットタウン、二棟のマンション間に機械的に設置された公園のベンチに非難した。彼女は手帳を取り出し、一ページ目を開いて考え事に耽る状態を周囲に見せ付けた。マンションの駐車場を出る車、駅に向かう人が動く、公園を利用する者は種田のみ。
曇り空、種田は空を見上げて、公園の時計で時間を確かめる。ベンチに座って一時間が経過した。
端末で警察のサイトに接続、ここ半年の殺人及び殺傷事件のデータを呼び出す。外部からの情報の引き出しはデータの参照であれば許可されている。セキュリティ問題も警察から支給された端末によって情報の漏洩が堅守されている。もちろん、種田は情報の専門家でもない。支給時に言い渡された文言を覚えただけのこと。
十三件が該当。
端末をスクロール。
最初の一件を開く。
しかし、開かない。ロックがかかっている。
特定の権限か?
ほかの情報を開こうとするが、十三件ともアクセスが禁じられていた。
種田は電話をかける。
「おはようございます」
「なんだ?」
「熊田さんは署内でしょうか?」
「ああ、たった今着いたばかりだ。監視でもしていたのか?」
「調べて欲しい件があります」種田は検索結果の非表示、アクセスロックの現象を上司である熊田に報告、情報の開示を署内のPCを使って自分の端末に送るように頼んだ。熊田は低い声で応えた。
「勤務時間前にそもそもお前たちは何をしている?」
「なぜ二人だとわかったのでしょうか」
「種田は車を持っていない。鈴木と二人で担当した事件は上層部から捜査継続の停止を昨日、私が伝えた。S市との情報共有を求めたのが原因らしいぞ」
「たのしそうですね」
「引き上げてくるんだ」
「柏木未来という人物がフランス料理促進普及協会の事務所に住居を構える、彼女を調べます」
「見込みは?」
「五分五分といった感じでしょうか、鈴木さんが張り込んでます」