「お前たちは有給扱い、書類はこっちで作成する、文句は言わせない。上層部ににらまれないための対策だ」
「結構です。では検索情報をお待ちしています」
電話を切って一分後、端末に検索情報が送られた。
二〇一四三月二十日 午後一時三十二分事件発覚
被害者 東海あやね
腹部裂傷による出血死
所持品 端末 手帳 教科書 ノート 筆箱 化粧品 ハンカチ 鏡 財布
フランス料理推進普及協会会員証ナンバー102010
十三件の内死亡が三名、残り十名は刃物による裂傷と、階段、坂道からの落下による打撲とかすり傷。死亡者には所持品に協会の会員証が見つかり、生存者の事故現場の半径二メートルに協会の張り紙が確認されていた。フランス料理推進普及協会に関連した事件を上層部は見落としていたことになる。それほど一般的な会員証には思えない、疑うべき対象であるはずのなのに、また利権が絡んでいるのか、種田は口惜しそうに地団駄を踏んだ。
「種田です」鈴木に連絡を入れた。
「こっちに動きはないぞ」
「フランス料理促進普及協会は、ここ三ヶ月間で十三件の事件に関連が疑われます」
「正式名称は言わなくていいよ、面倒くさい」
「協会の会員証が死亡者の死体から発見され、軽傷者においては襲撃場所の近くから協会の張り紙が見つかってます」
「単なる偶然じゃないのかな、会員証は疑わしいけど、張り紙はそこら中に、ほら、柏木未来のあれっ?おかしいな、さっきまで室内の照明がついていたのに……、まずい」
「鈴木さん?」
「あとでまたっ、かけなおす」端末を仕舞ったしぐさによって目線が変わり、道路を挟んだ監視対象が動いた。
さくら不動産のシャッターが上がっている、種田は腰を上げた。車を二台やり過ごす、既にシャッターは上がり目的の人物は店内に姿を消していた。隣の弁当屋も店を開けたようだ、オレンジ色に黒の店名、軽トラックが隣の店の前に駐車する。さくら不動産を開けた人物の交通手段が気にかかる、種田であった。
「すいません」
「ああ、これはお客さんですかな、いやあちょっと待ってくださいませんかねぇ、まだ、営業前なんですよ」独特な言い回しの人物は、この店の唯一の従業員で経営者と名乗った、名前は田村という。種田は身分を明かし、相手の名刺を受け取る。準備の片手間でよければという許可を貰い、話を聞いた。種田は立ったままである。柏木未来の住所を、読み上げる口調で音声に変換した。