コンテナガレージ

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今日は何の日?4-1

 午前七時半。店のドアを開けて、ベルの音が鳴らないようにそっと慎重を期した。

「わっ。店長、今日はいつになく早くありません?」

「そうかもしれない」そっけない返事。これがまた体内の血液に染み渡る。

 仕事着に着替えた小川安佐は、ランチの仕込みを店長にきいた。

「豆を使ってみようかと思って」眉を上げた店長の斜め下に向けた視線を私は捉えた。いつも感じる冷淡で淡白な印象とは何だか、うまく言い表せないのが憎いくらい彼女は存在の、距離の近さに、咄嗟に反発する同じ極側の磁石を向けるところだった。

「以前にもサラダで使いましたよね、今回はメインで豆を?」

「今日は店内を開放する、ライスにメーンと副菜、スープ」

 茹でたソラマメの皮をやはり微笑を浮かべて店長はむく、何か良い事でも、いいやそんなことあってはならない、もしかして、まさか、いいや絶対最悪の事態ではないか、ありえない、ありっこない、店長に限ってそんな、いらない不安と想像が小川の脳内を駆け巡り、かき乱し、かく乱。

「……どういった風の吹き回しですか?」小川はそっとソラマメに手を伸ばし、殻をむき始めた。店内は二人、人気のない場所、昨日の夜までにぎやかに騒いでいたからと独り占めの気分に浸れる、彼女はふとホールに食事を楽しむお客と接客するホール係の国見蘭を投影した。

「今日は豆の日だからね」

「店長まで毒されたんですかぁ!」

「声が大きいよ」

「だって、店長、決まりごととか習慣とかそういうのを信じないタチですよね?どうしてまた、やっぱりあの、誰かの影響ですか?」

「難しいね。影響を受けたことには変わりないけど、誰かっていう特定の人物ではないよ。ここ最近の事情が重なり、使用を選択した。最近は暖かさを考慮してテイクアウトに力を入れてきたし、ここらで店内での飲食の割合も増やそうと思ってね。暑すぎると室内に適温を求める」

「びっくりしましたぁ」小川は天を仰いで、あからさまに胸を押さえた。「店長が一般市民の悪い影響を真に受けたのかと思いましたよ。いやはや、早合点も甚だしいですな、私もいかんせんそこそこ歳を取っているわけですよ」