コンテナガレージ

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今日は何の日?6-3

 館山は、逃走を図り彼女を監視、追跡していた田所の隣に座り、タクシーに揺られ、体を休めながら、事の真相を問いただした。運転手には筒抜けであったが、この際構わない、店名がばれないようコックコート、胸元に刺繍された店名は見えないようにパーカーのチャックを喉下まで閉める。

「私を追いかけていた様子でしたけど、いつからですか?店を出てから、それとも店を訪れてからずっとですか?」館山は威圧を込めて、狭い後部座席の車内を効果的に利用するため、声のトーンを落として言った。

「まったく何をおっしゃっているやら」田所は額に浮いた汗を手の甲で拭う。紳士的なのはどうやら格好だけのようである。「私は、偶然にもあなたと同じ店で紅茶をたしなんでおりました」

「あの店を選んだのは、じゃあどうしてでしょうか、他にも幾つか店はありますよ」

「それは紅茶がたいへんおいしい店だと伺ったものですから、思い出してふらりと店に入ったのですよ」

「あそこはコーヒーがメインの店。紅茶がおいしいなんて聞いたことがない」

「そうでしたかね。私は十分においしく頂きました。味覚が違うのは年齢のせいかもしれません。なにぶん、あなたよりも何十年先に生まれております」

「私を追いかけてたことを、認めないの?」

「とんでもない、追いかけるだなどと、私がどうしてそのような卑劣で愚弄な行為に及ぶのか、目的が見出せません」

「何を言ってもそうやってはぐらかすつもりですか」館山は、端末を取り出した。「隣町の刑事さんの電話番号です、いいですね、今からこの番号に電話をかけます。事情を説明しますよ、この状況も、この間の無作法な登場も」

「いやいや、落ち着いて考えましょう、館山さん」田所は行動の静止を訴える。その直後、上下に揺らした手で口元を押さえた。目と眉が離れる。

「名前を知ってしましたね、なぜでしょうか、それはつまり私を調べたからですよね」

 田所は観念した様子で目を閉じる、深くシートにもたれて。

 黙りこくってしまった。行き先を告げていたのか、タクシーはS駅まで北上すると進路を変えて今度は南下を始めた。