コンテナガレージ

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今日は何の日?6-4

 館山はこのまま店の近辺、四丁目で車を停めてもらい、田所を引っ張って店に突き出してやるつもりでいた。彼も非を認める態度だと思っていた、その矢先だった。

 思いがけなく、息が止まった。

 胸を強打、顔が助手席に埋まる。

 押し付けられるような、屈辱的な感触だった。 

 遅れて音声が届いた。

 幸い、シートベルトをしていたので体は浮き上がり、シートに押し付けられた。

 しばらくは動けなかった。

 かろうじて正確だった視覚が、反対側のドアが開いた状況を捉えた。

 何が起こったのだろう、車の速度はゼロだ、時速五十キロ程度からのゼロである。隣、男、フランス、ああ、そうだ 、混濁した意識で状況の整理に取り掛かる。ドアからは、車内の私と運転手の安否、現状を捉えよう、把握しようとする呼びかけがかすかに聞こえた。耳鳴りが止まない。吐き気。こみ上げて、押し戻す。何をしていたんだろう、ここはどこだ、お腹が痛い、シートベルトが食い込んでいるのか、指、左手が痺れている、グローブでもはめたような皮膚感覚、顔面もはれぼったいし、鈍痛が感じられた。口は何とか動くか。隣。逃げられた、誰が?喫茶店の男、髪をばっちり固めた人物だ、田所。うん、頭はずいぶんといい感じ。すっきりと爽快。いいぞ、単語から文章が作れた。ははは。痛い、口腔内は血の海。豊富な鉄分、赤、成分を味で感じられるのは鉄がもっとも適しているのかもしれない。もっとも金属は似た味なのかも。

 何が起きたんだろうか、記憶を振り返ってみる。それよりもさ、なぜ運転席側の後部座席が開くんだ、あそこはだって、開かない仕組みじゃなかったか……。まったく、疲れているんだから、そりゃ眠くなるよね、口をあけて眠ったらはしたないから、だって血は見せられないもの。呼吸が落ち着いてきた。視界がぼやける。メーターは刻んでいる、こんな時でも、運転手はあれれ、前のめりで、まるでシートが合っていないみたいだ。運転手は制服を着ていない……。ダメだ、もう、ここは外だけど、仕方ない、眠気には勝てないさ。