コンテナガレージ

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今日は何の日?7-3

「捜査の中止ですか?」種田はそっと、窓を半分開けた。

「S市の駅前通りでフランス料理促進、普及協会の会合が開かれるらしい。北海道の総会だって」鈴木は慌ただしく煙を吸って吐いて、灰皿にタバコを押し付けた。インパネ、空気清浄のスイッチを押す。

「これは事件と考えていいのでしょうか?」種田はいった。

「どういうことさ?だって、川上謙二は死んだんだよ」

「しかし、他殺ということではありません」

「だけど、胸を圧迫されたのはやっぱり故意に動きを抑制して、息が吸えないように肺の拡張、収縮を押さえ込んだんだろうね」

「いいえ、直接手を加えずとも体に重りを乗せて身動きが取れない状態を作り出せば、自然に死に至ります」

「いやいや。だって体には圧迫された痕跡は見つかっていないんだ」鈴木は無意識にタバコを取り出して、火をつけた。「どうしたって、胸を圧迫するほど動きを抑える重さだったら、痕は残るし、どの程度の力が加わっていたのか、骨格の変形で体に接する重りの形状も大よそのイメージが可能。だけれど、均等に胸全体を圧迫された、つまりやわらかい物を押しあて、その上から押さえられたと考えられる」

「上向きとは限らない。体は床に対し圧迫を加えられた」淡々と種田は言い放つ。だが、確証はない。彼女はその可能性を捜査の初期段階から考えていたが、裏付ける物証や状況を後押しする事実の発覚まで意識的に公開を控えていた。この時点において、仮設を言ってのけたのは、死因が単に引き出され、浮き彫りとなる事実のために利用されたという考えに行き着いたからであった。しかし、これもまた種田の想像、刑事の勘、あるいはもっと動物的、言い換えれば女性的な勘であることは言うまでもない。

「痕がつくだろ」

「体を包み込む薄手のポリウレタンや枕に使う反発性の素材、マットレスなどをかませ、体に直接固い床が当たらない程度、そして床との圧着を感じる重さ、力加減であれば、死体は作り出せます」

「種田、それって他殺って言ってるように聞こえるけど」鈴木は納得できないのか、首を傾け、タバコをくわえて、ヘッドレストに後頭部をつけた。

「重要なのは自殺か他殺か故意か、ではありません。死体の発覚がこの事態を引き起こした人物、または集団の目的ですから」