コンテナガレージ

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今日は何の日?8-2

「不可抗力だから、仕方ありませんよ。映像見ましたけど、よく生きてましたよね」小川が言う映像は、通りを南下するタクシーに逆送した車が正面からぶつかり、タクシーが後続車との間に挟まれた映像である。一般市民が取った映像だ。観光客が回したカメラに映っていたとのこと。

「怪我はいつになったら治るか聞いてるか?」

「意識が回復次第、だそうです」

「先生を呼んでもらえるか?」

「はい」小川が人差し指で静止と規律を同時に結ばせる。「でも無理はいけません」

「ああ」

 小川は席を外し、髭を生やした、いいや剃る暇もない男の医者が対応した。ベッドが動く、傾斜の角度を変えられるらしい。話しやすいようにとの配慮か。首ごと動かして視界を確保することはできる、彼女は医者に尋ねた。

「首と手首の怪我の治療はどのくらいの時間がかかりますか、私、仕事に戻らなくてはいけません」

「すぐにとはいえないし、許可もできない。首は、それほど重い症状ではないですね」医者は立ったまま手元の資料、データを見つめて言う。こちらをまったく見ていない。

「額の傷も腫れはすぐに引きます。多少、凹凸が残るかもしれませんが、痕が残りにくい処置を施していますので。それと、左手ですが、あまりいい状態とは言えませんね」

「治らないと?」館山は力強く応える、痰が絡んだ。声を出していなかったのだ、恥じることはない。

「いいえ、完治には時間がかかります。その間、仕事は極力、いいえ治すのなら一切行わないことが求められます」人によって態度を変える人物とは異なる、事務的な言い方、医者という職業を心得ている、館山は安心した。

 

小説の1話目は、こちら。

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