コンテナガレージ

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今日は何の日?9-2

 店長は反論が二人から起きないことを確認すると、作業に戻った。小川の休憩時に明日のハンバーガー用のバンズを商店街のブーランルージュに注文していた。小川のピザも念頭に入れてある。三品は欲しい。二品では悩まない、店先であれこれを悩む姿は、他のお客の呼び込みに適している。店長は粘りの加わったひき肉の成形に移った。

 国見は決意の眼差しで、すがるように、あるいは意志を吐き出す館山のようだ。彼女は問いかける。

「これまでのお客さん、ディナーのお客さんが離れてしまうかもしれない。一度離れたお客を取り戻すことがどれだけ、たいへんか店長はまだ甘く見ています。短い時間でもきつくても、ディナーは再開すべきです」国見は前の店で負った傷の恐怖を呼び覚まし、わざと恐怖を味わっている。店長は彼女のその台詞を前にも聞いていた。しかし、現実は過去のデータ、明日の予測とは別ものと考えるべきなのだ。ただし、これ以上の詮索、道しるべ、提案から店長は手を引く。

「小川さんは何をしているだろうか、彼女を見て、何も感じない?」

「仕事に専念してます」小川は店長と国見の会話が聞こえていない様子、釜内部の火加減と温度経過を凝視、手元のタイマーとにらめっこ、焼きあがりの計測にのめり込む。

「これまでとは異なる仕事。少しでもあの釜に近づいた人ならわかる。熱さでしんどい仕事は嫌煙されがちな対象だ、しかし、小川さんは喜んでいる。しかも僕は明日ピザを作るとは伝えていない。作ることは僕の片隅にはあった。それとは別に、彼女は進んで実行に移した。昨日までとは態度が異なる、魔法にでもかかったような仕事振りだ。任されて視界が目的の達成にのみ注がれた、と僕は思う。その点、国見さんは安全側にマージンを摂っている」 

「当然です。熱に浮かされて、一喜一憂なんて私にはできません。この店の経営を預かっているんです」間髪をいれず国見が言い返した。

 小川は釜の前で平然と、またひょうひょうと取り出したメモ用紙に書き込む。

「昨日までのセオリーは忘れてもらう」

「では店長、どうやってお客を明日、ディナーのお客をお昼に取り込めますか?時間帯が合いません。お客は仕事が終わってから夕食を摂りに訪れるのですよ」