コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

巻き寿司の日1-2

 ドアをノック、外から覗けるタイプのドアではない。種田はドアをノックというよりは、叩くように音を鳴らした。大きな音も喧騒にかき消されている、背後の賑わいはまるでお祭りの神輿を見物しているようだ。

 取っ手に手をかけるが、もちろんドアは閉まっている。

 二歩後ずさる。建物全体を見上げた。二階から上は他のテナントが入っているのだろうか、建物は古く、年代物。似たような古さのビルが左右に繁栄期の名残、もうおそらくは入っていないだろうテナント名の看板が建物側面、通りを歩く人に見てもらうために張り出しているのだが、このフランス料理店を一階に構えるビルは灰色が風化と劣化でくすみ、なんの出っ張りもない、直方体であった。種田はビルとビルの間を進んだ。スーツがかすかに擦れるが通り道として利用されているだろう。

 ビルの真裏。勝手口か倉庫という予測を立てる、背の低い屈んで入るサイズのドアがあった。丸いドアノブ。手をかける間際に嫌な予感が過ぎる。経験から生じる類似データを脳が解析、勝手にその状況を再現させて、記憶を呼び覚ましたのだ。死体、死亡というワードがはじけて消えた。一瞬だけ躊躇ったものの、捜査用の手袋をはめてドアを引きあけた。

 音楽が流れている、クラシック。重たい旋律。種田は音楽の類をまったく聞かない、ただ、楽曲名と音を同時に不可抗力で聞いた場合にはそれはデータとして記憶されていた、彼女の意志に関わりなくである。

 ドアをくぐった先、足元はコンクリート、土間のような印象。木製の棚に整然と並ぶワイン。入ってきたドアを見ると、厳重に外側のドアノブと似ても似つかないカードキーによって開閉する真新しさが伺えた。おそらく、外からは入らないのだろう、しかし、種田は理解に苦しむ。鍵がかけられていなかったのは、無用心にもほどがある。つまり、中から開けて、そのままの状態で外に出たか、鍵を開錠したまま、ついうっかり忘れ表から出たのか、もしくは店内に誰かいるのか。

 種田は在宅を尋ねた。通常の一・五倍の音量で発声した。

 しばらく待ったが、返答はない。ドアをきっちり閉めると、かちゃりと施錠の音が鳴った。ドアノブ上部のカードをかざすパネルが緑から赤に変わった。開閉によって毎回鍵がかかる仕組み、それならどうして先ほど鍵を開けられたのだろうか、種田は不思議に思う。

 建物は一段低く設計されているらしく、コンクリートの基礎のように腰の辺りまでドアと対する壁は途中から始まっていた。ドアと対角線上に階段ともうひとつのドア。そちらが店内か厨房に続くドアのはずだ。

 種田は室内に入った。