コンテナガレージ

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巻き寿司の日1-4

「ドアが開いていたので、中に入りました」

「あのさ、そこはさぁ、S市の管轄ってことぐらいは理解しているよね?また睨まれたら今度こそ、部署にいられなくなるぞ」

「指導や命令は、甘んじて後にいくらでも受ける覚悟です。ですから、まずは事件の解明を先決させたい。死体の女性はフランス料理促進普及協会の副会長という肩書きの名刺を持っていましたが、これでもこの場を去る必要がありますか?」

「おい、まさか、嘘だろう?部長の情報はじゃあ、どんぴしゃだったのかぁ。さすがに情報通。しかし、待てよ」鈴木が電話口で唸る。「通り沿い、それも事故現場のまん前に部長が僕らを向かわせたのって、事故発生の前。つまりさ、事故がもし故意に引き起こされたら、フランス料理店に導かれたのは必然ってことにならないか?」

「最初から川上謙二の死から私たちは導かれてます」

「熊田さんに指示を仰ぐよ。捜査は許されても死体が出てきたんじゃあ、管轄に任せるしかない」

「それでは私は連絡を待つ間に、室内と死体を調べます」

「くれぐれも見つからないように頼むよ。事故の目撃者は多数いたようだから、近隣への聞き込みの可能性はないと思う、それと……」

「失礼します」話の長い鈴木の会話を途中で分断した。種田は、同じことを二度、三度話されることを嫌う。こちらが理解していないと思っているらしい、種田の無表情、無反応な態度によるものだといわれたことがあって、改善し、うなずきを多用したが、それでも相手の説明のくどさ、繰り返す言葉は、自身のつたなさと物足りなさの表れと解釈していた。よって、あまりにも内容に変化がないと見極める種田は相手が誰であろうとも会話を打ち切るのだ。

 冷たい死体を見つめる。端末で写真を収める、種田が見返すのではない、鈴木に見せるためである。彼女は室内を見渡した時に記憶のシャッターは既に押していた。

 微かな振動音が聞こえた。上着にしまった端末を外側から触っても動いていない。

 死体から聞こえる。

 死体の端末を取り出す、平たい画面には”フランス料理促進普及協会 田所” と表示されていた。

 種田は躊躇わずに電話に出た。「はい」

「どちらさまですか?」男性の声である。

「そちらは田所さんでしょうか?」

「はい、私は田所ですが、失礼ですがそちらさまは?」

「O署の種田といいます」

「失礼しました」