コンテナガレージ

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巻き寿司の日2-1

「申し訳ありません、事情がありまして、今日からディナーの営業は休みます」感情をぶつけるように、決意を固めるように国見蘭は、入店した一人の女性客に堂々宣言してみせた。まるで、店長に向かって言っているとも受け取れる態度である。

聞いていないふりを決め込んだ小川は、ドアの開閉前に店へと入ろうとする姿に目がいく。次の生地の焼き時間を確定する気の緩みに乗じて視界に入れた。

「店長さんに話があるの」決然と言ってのけるお客はずかずかと店内、カウンターまで入り込んだ。外ではその入店を機に店に入ろうか、迷うお客が二組。小川は罰印を外に向けて、お客にアピールした。気がついたお客は釜を指差し、何かを焼いているではないか、という主張だった。それに対して小川は、あたふた、伝え方を模索、ポケットの手帳を見つけて、ボールペンで大きく本日閉店、ディナーは三週間の休み、ランチは通常通り、を三行、罫線のない紙に書いて窓に押し付けた。お客は囁きあい、笑って、頭を下げて、去っていった。

 ふう、小川は大げさにため息をつく。三週間という明確な時間を伝えてしまったけれど、良かったのだろうか、彼女は店長の言葉を鵜呑みにしたのだから、と思考を遮断して、もっとスリリングな展開を期待する店内に意識を向けた。しかし、ピザ生地を釜に入れてから、耳を傾ける。

「何か?」店長はハンバーグの粘度を確認すると、成形に移った。ハンバーガーのひき肉は通常、店で提供するディナー用ハンバーグの約半分の厚さである。他の具材を挟むことを考慮したために厚みを抑えている。

 食べ応えがないというお客の声はあまり聞かれなかった。ホール係を兼務する小川は、情報の収集に休憩時間は幾つか決まった喫茶店やカフェを渡り歩く。理由は、他店の食事内容及びうちの店の噂を聞くためであった。当然、体力の回復も兼ねているし、それは毎回というわけではないが、自然と新しいメニューや彼女がランチの提供の方法、これまでとは異なる予測のつかない店長の指示を受けた日は決まって情報を集めるのであった。

「悠長に構えていられるのも今のうち。早く店をたたんでさっさと身を隠せ!」切羽詰まった言葉だった。体験から発する独自の危機感。しかし、臨場感の伝達は不得意なようだ。童話に出てくる少年を思わせる前半の嘘に思えた。

「あなたは、誰です。まずは、質問に答えてください」店長はまったく動じていない。それどころか、息を吐くタイミングを借りて話しているので、動作は流れるようだった。はさみで切り絵を作っているみたいに。

「ここの従業員が命の危険にさらされた、あれは事故ではない、仕組まれたのさ」女性は手のひらを返して言う。「私も殺されそうになった」事故、それから殺されるという言葉に店内の視線は人気のなかった彼女の瞳に集中する。