コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

巻き寿司の日2-2

「館山さんを知っているのですか?」店長が訊く。

「さあ、名前までは。ただ、駅前の事故現場を通りかかって、仕組まれたのだと確信を持った。現場の目の前にフランス料理の店があったのさ、それがゆるぎない証拠」

「あのうですね、話の腰を折りますけど」小川が釜を離れてカウンターまで出てきた。「フランス料理と館山さんとの関係がいまいち、つながらないんですね」

「フランス料理促進普及協会、といえば聞き覚えがあるだろう」女性は腰に手を当てて言った。

「協会の人は昨日来ていました、副会長だったかな」店長が思い出すように呟いた。「それよりも、あなたはどなたですか、名前を知ってもすぐに忘れますけど、あなたを呼ぶために応えてください」

「柏木未来」躊躇って彼女は名乗った。

「柏木さんはうちの店とその協会との関連を見出した経緯というのは、どういったことでしょうか。納得するまで行動に移すのは難しい。一人であるならば、まだしも、ここは店ですから」

「人が殺された。半年も前から続けて殺されてる。警察に知り合いがいて調べてもらったから、間違いはない。近い時期だと今月に川上っていう人が殺された。ただ、警察は事故と見なして捜査はしていない。そして、昨日の交通事故」

 国見は柏木未来に座るように勧めたが、取り合わない。気を落ち着けるため国見はグラスにお茶を注いでカウンターのテーブルに置いた。

 タイマーが鳴る。小川は釜に翻って引き返し、焼き加減を見極めた。残りの半分をセット、手前に取り出した生地の位置を変えて、投入。焼き上がりを待つ、多少焦げ付いたが焼き加減は上々だ。単純な作業だけに工程の一つ一つが味、出来栄えを左右する。複雑な工程ほど、素人には味の良し悪しがわかりにくいんだ、小川は職人の技を掠め取り、掴みかけたような気がした。

 柏木はお茶を一口だけ含む、外を見た。ドアとそれからホールの窓もだ。小川がカウンターの先ほどの位置で事態を観察する、当事者であると同時に客観的な意見を述べるように感覚が研ぎ澄まされていた、もちろん彼女の思い込みである。

「川上謙二だったら、フェスのフード担当者です」国見が言う。

「川上はフェスのイベントに参加を要請される以前は他の協会に属していた。だが、フェスとの関わりを持つようになって彼はフランス料理促進普及協会へ強制的に加入させられる。そして、フェス終了と同時に彼は退会を求めた。当然、仕事の円滑な進行が入会の動機だった。彼は健全な行動をとったのさ。そして、退会を求めた数週間後に殺された」

「つまりですよ」小川が整理する、彼女はまとまらない考えのまま話を先に進めて欲しくなかったからだ。「川上さんは、望んで協会に加わっていなかった。そして、退会を求めた後に殺された。退会を求めた人が続けて殺されている、ということを、ええっと、柏木さんは言いたいんでしょうか?」

「次に殺されるのは私だ」柏木の表情は引き攣り、こめかみあたりの筋肉は痙攣を起こしていた。