コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

巻き寿司の日5-2

「私とあなたは違う」店主は首を短く振った。「同属と思い込んでいるだけで、私はあなたと意識が通ったなどと思いません。短時間のこれまでも、これからの何千という時間であっても」

「間違ってなどいない!フランス料理を手に入れて、あなたの料理は更なる飛躍を遂げる。私のように」

「取り入れず、利用せず、現状のままで居続けることが候補のラインナップに選ばれていないのは、おかしいですね」店長が言った。拳銃はまだ、田所の手が握る。「変わるというのは、新しい認識を取り入れることだけではないのです。重たい概念を脱ぎ捨てることで見えてくる現実もある」

「あなたが作らないフランス料理が存在しても、まるで意味がない、そうは思いませんか?私はいずれあなたの店で食事を摂る習慣を身につけたい、いつも驚かせて、私を鼓舞する毎日を予感できるのです。さあ、言いなさい、言うんだ。私に従うと、私と共に協会を盛り上げると。私にとってあなたがとてもとても重大な意味を持っているんだ、契約を結べ、結ぶんだ、活気溢れる店に作り変えようではありませんか」

 笑い声が上がると、田所の左手がかすかに店長の正中から外れた。そして彼の背後、死角の小川が意を決して飛びかかろうとした。しかし、動きは読まれていた。

「見えているぞ!見えている」田所は言葉の威嚇によって彼女の動きを制した。小川は後ずさり、釜の横まで素直に戻った。

 彼が店長の額に銃口を合わせようとしたとき、彼の端末が鳴り出した。拳銃を持つ左手首を彼は触る、腕時計型の通話デバイスである。

「なんだ、取り込み中だ」田所は一人で話しかける。相手の声は周囲には聞こえなかった、右耳にはめた機械が通話を可能にしているのだろうか、店長は機械には疎い。ただし、この状況で一人芝居の演技を行っているとは思えない。「わかった、ご苦労」田所は拳銃をしまう。咳払い、小川、国見、店長を順番に見やった。にやりと口元を緩めて、黒目がちな目が光る。「どうやら、今日は時間が来てしまったようです。不本意ですが不可抗力には叶いませんから、お暇します」彼は、通路に跳ねるよう降り立つ。そこで国見にきいた。彼女はホール側の段差を上って、距離をとっている。「奥の通路は裏口ですね?」

「ええ、そうです」毅然と振る舞う国見が顎を引いて応えた。

「ありがとう。それでは皆さん、またの機会に会えるのを、協会でお待ち申し上げます。ではでは」マントがあったら、ひらりと風に舞いそうな走り方で彼は裏口から消えた。

「はあぁ、びっくりです、青天の霹靂っていう言葉が当てはまる状況でした。拳銃ってな……」堰を切ったようにしゃべりだした小川の口をふさいだのは、乱暴な入り口の開閉とベルのけたたましい音色だった。