コンテナガレージ

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エピローグ 1-1

「お疲れ、お疲れ」また、独り言をつぶやく。

 仕事帰りに、ぎりぎりで飛び乗った座席で不用意な発言。咄嗟に口をつくんだ。デザートのプリンをコンビニで買っていた時間を正確に計算、バス到着には十分な余裕があったはずだったが、レジ操作に手間取る店員は前に並ぶお客への対応が遅れに遅れ、山遂セナは危うく最終バスに乗り遅れるところであった。

 とにかく、ターミナル駅までの数十分はこれで体を休められる、目瞑ってやっと休息に専念できる、彼は固めの椅子に体重を預けた。なるべく、意識を失わないように心がける。まだ家には遠く、これからターミナル駅で電車に乗り換え、駅から自宅へ、さらに二十分ほど歩かなくてはならず、バスや電車内で眠りに誘われると自宅に帰り着き、いざベッドにもぐりこんだとしても、眠気は思ったような速度で襲ってきてくれない。だから、乗り物では、意識を保ちながらの睡魔との闘いに勝ち抜くこと、これが快適な睡眠を誘導する自分なりに導き出した答え。バスでも電車でも乗り過ごしは許されない、と山遂は覚悟を決めていた。

 未開発の土地、臨港沿いのバス路線はある建造物の着工前から定期運行を始めていた。当然、山遂の他に乗客は一人も乗っていない。バス会社の集客見込みのない、まったく利益に反した無謀な方針の裏には、施設完成前、完成後、さらには開業後までの短期間なバス利用の集客データを集めるという目的があるらしい。これは、山遂が勤めるTAKANO建設の他部署の人間が今日の会合で内部事情を開けっぴろげに話していた内容である。この建設会社が、バスの運行を依頼している。

 バス会社は車両に施されたラッピングによる広告収益を得ているし、車両は自社倉庫のバックアップ用待機車両を定期運行に回したので実質的な負担もない。しかし、開業前のデータは一体どの分野に活かされるのだろうか。また、そのデータはバス会社の財産にはなり得ないのか、明かりがほんのり浮かぶまぶたの裏で首をわずかに傾斜させる山遂は利益共有の裏に隠された強かな自社の笑みを感じ取った、カーブの遠心力に耐えて。