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エピローグ 1-4

 性質は環境にも生まれ持った体質にもよる。

 多くの場合において、身体に異常をもたらす精神的な不調は体の不具合がその主な要因と彼は断定する。精神的な病のほとんどは固く縮まる体の開放で解消される。ただし、人は陽気な生き物であり続けるために、明るい性質を生まれつきの素養であると思い込んでいる動物だ。そのために、外部のあらゆる事象から悲観的な落ち込みを回避し、好都合な解釈に再構築して認識させる行動を幼少期から積み上げる必然性を迫られる。だが、それらの体験の適合に漏れた私のような人物は、毎夜取扱説明書を書き直さなくてはならない。間違いと、考えすぎと、成功例とを照らし合わせる作業が就寝前にまでに待っているのだ。 

 歩道橋を潜って、人工的な明かりと他所から植樹された細長い木々の間を抜け、バスは時計回り、ほぼ一回転、正面を進入した角度に近づけて、動きを止めた。

 颯爽と彼女はステップを下りる。ゆっくりカードをかざして山遂もバスを降りた。つかつか、ブーツの足音は前方の後姿が発信源、それを追うように山遂は駅に向かった。

 山遂の前、一定の距離に彼女の姿が見える。ホームは寒いので、列車が到着するまではエスカレーターを降りた先の風を防ぐ半分室内といった場所で、二人とも待っている。特に不思議はないか、山遂は考えすぎの自意識を正して、声に出さずに斜め正面の彼女に謝った。

 その時、電車がホームに駆け込んで、先にホームへのドアを引きあけた彼女の横顔が微笑をたたえているように見えた。気のせいだったろうか、彼は思う。無表情なキャラクターが笑っているように見えてしまうだけなのかも。

 満員の車内。

 かろうじて一人分、外を眺めるスペースを確保した山遂は、次の降車駅では開かないドアの正面に立った。窓の片隅に映る彼女を山遂は意識しないようそっと姿を瞳に映せば、彼女の目が綺麗なカーブを描いていた。