コンテナガレージ

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拠点が発展1-2

部署内で警察らしさを最も表に現す署員は鈴木だろう。

「ガッチガチに固い馬券だったのなぁ。残念なのはお前だけだと思うなよ」

「はあ、相田さんと話しても埒が明きませんね」鈴木は落胆、肩を落として腰を下す。

 相田が椅子ごと詰め寄る。「諦めた?」

「……そうですねって、言うと思いました?給料日に必ず回収しますから、その日が非番でも家に押しかけます」

「弱った振りは演技か」

「お前ら、警察の本分も忘れないように頼むぞ」熊田はじゃれあう二人に釘を刺す。

「ほらあ、言われてますよ相田さん」

「お前だろ」

「どちらもだ。それより、種田はまだ来てないみたいだな」熊田は部屋のドアに視線を送った。鈴木がそれに反応、相田は元の位置に戻り、体重で悲鳴を上げる椅子に深く座りなおした。

「電車が遅れているんでしょうかね。種田が遅れる理由といえば、それぐらいです。天災が起きても、まあ種田なら這ってでも出勤しそうですけどね」口元を押さえて鈴木は笑いをこらえた。

「おはようごさいます」噂の種田が頭の雪を犬のように左右に払い、ドアの前、威圧をこめた視線を鈴木に向けて挨拶をした。

「遅かったな」熊田が言う。時計は就業時刻開始を指していた。

「遅れてはいません。時間には間に合っています」種田は短髪を無造作に払う。服装や化粧に興味を持たないのが種田の特長で、にもかかわらず人の目を引くのは端正な顔立ちと身長の為だろう。

「遅延か?」熊田は愛想笑いも微笑も浮かべない種田の横顔に言った。

「私がいつもの電車に乗り遅れたのです。電車は正常なダイヤで運行しています」

「寝坊か?」

「質問ですか、それともただの日常会話ですか?」

「いや、言いたくないなら答えなくてもいい」

「……」種田は沈黙、返答を断る。

「熊田さんの問い掛けを断れるのは、種田ぐらいなもんだよ」鈴木は種田に睨まれて、大げさに有毒ガスから身を守るように口を押さえた。

「それにしても年末に四人も要らないでしょうに」

 相田のぼやきは一理ある。先週の仕事と言えば、猫屋敷の実態調査に鈴木と相田が出向いた、取るに足らない出動のみで、しかも種田はこの部署内で毎日終業時間を迎えていた。