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拠点が発展1-3

そのぐらいに、特殊な部署なのである。ここは熊田の異動先を無理やり作り出すことで誕生した。どの部署に異動になっても組織の厄介者に認定されてしまう熊田の扱いに、上層部がひどく頭を悩ました結果、不要な人材を送り込む部署の新設を決意、実行に至ったというわけである。そのため、集まる面々は曲者が多く、と言うよりはほとんどが何らかの組織に馴染まない性質を持ち合わせているのだった。熊田自身は特別、能力が劣っているとは思っていない。むしろ、周囲の人間の回りくどさに一人で事件を解決に導いてしまえる非凡な才能を有する。しかし、それがやっかみにつながり、この部署に異動になるまでは、捜査権はほとんど与えらない時期を過ごしていた。

 部署の実質的な指揮は熊田が握る。ただ、部長の役職と肩書きを持つ人物、空いたデスクの所有者がいるにはいるのだが、レアキャラのごとくめったに署に姿を見せない。しかし、姿を見せないのは忙しさが理由だと、熊田はおぼろげな印象を持つ。それは、部長がたまに事件に関する情報の提供や関連証拠の捜査を手の空いている部下に個別に依頼するためである。だったら、情報の交換を密に行うべきで、その方が効率も上がるのでは思うのだが、部長は上層部とは別の機関から依頼を受けていることもあるようで、本来の目的を打ち明けずに捜査の成果だけを聞き出し、こちらが入手した情報が単に欲しいだけではないのか、と思える怪しげな行動に熊田を含めた部下たちは部長の信用に二の足を踏んでいた。しかし、部署は円滑に稼動している。仕事の依頼が絶対的に少ないのだから、たまに姿を見せる部長にも寛大でいられるのだという考えに熊田は落ち着く。

 先日の猫屋敷の件に関しても、いくら暇を持て余す我々であっても、出向くような案件ではなかったらしい。鈴木から受けた報告によれば、空き家に住み着く猫の駆除をたった一人の住民が執拗に近隣の交番に出向いて訴える状況に、交番の警察官が絶えかねて、鈴木と相田に捜査以来が舞い込んだ、というのが大まかな経緯である。

 実際に訴えはその通りで猫屋敷は存在しており、猫が住み着いていた。また、数年前にも同様の苦情が寄せられていたらしく、その記録も残っていた。猫屋敷は木造の一軒家で冬季間の風雪が屋根を押しつぶし、一階の天井と二階の床がつながる吹き抜けのような空間が出来上がっていた。過去に調書で取った写真がデータベースに残っている。

 以前の苦情は八月の下旬の記録で、猫の泣き声がうるさく、眠れないという訴えで保健所に連絡、記録には状況は改善されたと事後報告が書かれていた。ここから考えを推測すると、新たに猫が住み着いて住民に危害を加えている、そう考えるのが通常なのだが、先日の捜査はまったく異なる人物、近隣の住民ではない人物から苦情が出ていた。