コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

拠点が発展1-4

 同じ町内ではあるが数キロ離れたところに住む人物がウォーキングの際に通りかかる猫屋敷がうるさいので、どうにかしてほしいという苦情で訴えたのだ。

 その人物は日常的に交番の前も通過、その都度、改善を求め、それに耐えかねた警官が一名、精神を病み休息を申し出てしまい、対処せざるを得ない状況に二人が捜査に借り出されたのである。おそらく、苦情を申し出る人物は自らの要求を誰かに伝えたい、聞いて欲しい衝動を抑えきれないのだろう。根源的なストレスの開放は終わっているはずで、訴えを続けるのは止めるに止められない思考の遮断にある。そういった場合においては、言葉での説得は有効的ではない。見せつけることが最も効果的。

 そこで、二人はウォーキングの時間を調べ、わざわざ時間に合わせ、しかもパトカーで猫屋敷を調べる姿をその人物に見せつけたのだ。鈴木と相田は声をかけられるまで気づかない振りをしていたと言う。訊かれてはじめて答え、その人物が苦情を申し立てた人物と顔を知っていても、上からの命令でやってきたと、無知を決め込んだらしい。

 妥当な対応、と熊田は評価する。その人物は要求が通じた快感をかみ締めるだろう。だが、根本的な性格の改善には至っておらず、また形を変えた訴えを、その人物は起こしかねない。だからといって、踏み込んで詮索すれば保たれた精神のバランスはまた崩れる。放っておくのがベストである。また、本来の目的である、対象物の猫は二匹しか見つからなかった。泣き声はどうやら参った神経の過敏さが招いたらしい、と熊田は結論付けた。

「席を外します」種田は、端末を片手に立ち上がると廊下に消えた。

「めずらしいですね、人前で電話に出ないのは」鈴木がドアを見つめてつぶやいた。種田はあまり、いいやほとんどプライベートな会話に参加しない傾向が見られる。現代的な若者、二十代に顕著なマイペースな傾向とは異なり、基本的な意思の疎通を極力拒むのだ。会話が成立しないという、機能不全ではなくて、仕事に関することならば受け答えは返ってくる。仕事人間ともニュアンスは異なるだろう。熊田は思う。あまり、内情に探られたくない気持ちはわからないでもない。幼年期にすべてを認められない時期をいくらか過ごしたならば、そういった性格が形成されても不思議ではない。近しい人物にすべてをさらけ出せる人間は、認められた安心感を盾に、不用意に誰の敷居も跨ぎたがる。それが他人にも同様に備わった機能と謝った錯覚が、行為を拒む種田のような性格を爪弾く。あくまでも憶測過ぎない。

「お前、今度陰口を聞かれたら、一年は口をきいてもらないぞ」相田は鈴木を肘で小突く。