コンテナガレージ

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拠点が発展1-5

「陰口じゃありませんよ、そうやって人を陥れるから後輩に好かれないんですよ」

「そんな奴に好かれてどうする?」

「いざと言う時に、助けてくれます」

「いざって言う時は、一生のお願いを聞き入れてくれる神様が現れるぐらい、ものすごく低い確率だ。まあ、サンタを見たって、だれかれともなくプレゼントを見せびらかしていた頃だったら、助けてくれるやるがいるかしれないけどな」

「へえー」鈴木は眉を上げて感嘆の声を出した。「相田さんって、信じていたんですね。ひねくれて、直接親からプレゼントを貰っている姿しか想像できませんもん」

「信じるも信じないも、親の教育だろう、そういうのって。環境が違えば、いずれ自分からそのおかしさに気がつく」

 種田が戻って席に着く。しばらく間を置いて、彼女は熊田に進言した。「今日の午後から休暇を頂きたいのですが?」

「具合でも悪いのか?」そっけなく熊田が返答。

「いいえ、体調は良好です。日本と日本語に不慣れな家族が日本に帰ってきたので、滞在期間の住まいを今日中に探す予定を考慮して、私が同行するべきと判断しました」

「これまで有給は一度も消化していないのか?」

「取った記憶はありません」

「なら、休め」

「いいんですかぁ、熊田さん。そんな理由は他の部署なら絶対に通らない要求ですよ?」鈴木が身を乗り出す。熊田は、鈴木が先月に半ばに突然二日後の有給を申し出ていたことを思い出す。内容までは覚えていない、覚えていないのだから、まっとうなそれ相応の理由ではないのだろうか。

「休暇は必要で、現実に差し迫る案件はもたらされていない。そもそも休暇は非常時における上司の制止を振り切るための切り札。提示されたら最後、従うのが鉄則だ。お前も部下を持てばわかる」

「家族って両親か?」相田が花を摘むように聞いた。

「姉です。日本には住んでいましたが、日本語は得意ではありません。外国人向けの短期間の住まいも一人で探したようですが、めぼしい物件は見つからなかったらしいのです」

「あのう、種田って日本人?」言いづらそうな鈴木は声を潜めて言った。

「プライベートな質問ですね」種田は地獄のような微笑で首を傾けた。鼻から息を吐く。「……四分の一は外国の血です。ヨーロッパの祖母の影響ですね、私の目が茶色なのは」種田の瞳は日本人のブラウンよりも薄く透明に近い明るい潤いを含む。