コンテナガレージ

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拠点が発展2-1

 駅直結の空港から電車に乗り換えて、家族はS駅の改札にいる、と先ほど連絡を受けた。種田は最寄り駅までに電話を切り、電車に乗る。

 細かな雪がちらつく空模様。町並みは商業操作に疑いもしない、ある意味では人としての楽観性が遺憾なく発揮されたクリスマス前の陽気さなのだろう。ならば、普段であっても陽気に振舞えてしまえるはず、つまり楽しい出来事は当事者の気の持ちようであるはずだ。中には、感情が高まらず落ち込んでしまう人もいるらしい。まったく馬鹿げた世界。

 種田は、斜め上の網棚に整然と並ぶ緑と赤の目立った包装紙・紙袋を眺めて、S駅まで車両に揺られた。

 都心部の人間の歩行速度は時間に追われる者に感化されて誰もが皆一定の速度に引き上げられているように、種田には感じられる。人の流れは、エスカレーター及び階段で渋滞を起こす。我先にと隙間を埋めてスペースを確保しようと焦っても、さほど時間のロスにはならないのでは、と言う考えと、いいや、もし週六日、この行動が繰り返されたとしたら、一分のロスが一週間で六分、十日で十分、三十日で三十分と莫大な時間に膨れ上がる。しかし、時間は繰越しではなく、毎日リセットされるのだ。つまり、駅を降りた後に自由な時間が待っているのならば急ぐべきだろうし、拘束されるのであればここでの張り切りはむしろ無駄な労力で泡となって消える。

 足元を踏み外さないように階段を降りて、改札を抜けた。おそらく、あいつはベンチに座っているはずだ。

 コンコースの一角からコーヒーの香りが漂う。もしかすると……、種田は予感に従って、西口改札を出て北口に足を進めた。

 快活に手を振る人物に種田は六メートルほどの距離で見つかってしまう。声をかけられないように、そっと近づいたつもりだったのに、種田は諦めて反応を示さなければ振られ続ける合図に、胸の辺りに右手のひらを見せて応えた。案の定、あいつはコーヒーを手にしていた。嗜好は変わらないか……。

「休み、取れたの?」高く厚みのある声。真っ黒なストレートの髪の毛。さらさらよりも艶やかが表現としては正確だろうか、身長は種田とほぼ同じ。踵の高い靴を履いているために、目線の高さが異なる。