コンテナガレージ

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拠点が発展2-3

「はい、ええっと、可能ですね。事前にお調べになっていたようですね」店員は苦笑いを浮かべる。労力の無意味さに対する苛立ちが口元の引きつりで確認できた、種田はこの店員から信用を抹消する。いまどきのスタイルで清潔感もあるようだが、やはり拭えない表面のざらつきは着飾るほどに目立ってしまうことを彼は体感していないのだろう。

「もう決めてあったの?」灰色の瞳は瞳孔を開き、種田を見つめる。

「どうせ調べていないのだから、ここで調べる時間を省いた。不満なら、残り少ない時間を消費してまで、じっくりあなただけでめぼしい物件を選ぶことね。私が住む部屋ではない」吐き捨てるような種田の言葉に店員があたふた、たじろぐ。失った主導権を取り戻す経験は少ない、店員に抱いた種田の印象である。彼には端末で得られる情報以外の、こちらからの問い掛けでしか引き出せない部屋の隠された事情をもたらす役割をすでにこの時点で決めていた。部屋を選ばせる駆け引きの時間がないことは、姉への返答で伝わっている。

 アイラは肩をすくめる。「……こればっかりは逆らってもしょうがないわね。一生暮らす部屋を決められているんじゃないんだし、いいわ」

「それでは」種田は店員に告げる。「最初は、駅から十五分の物件を見させてもらいます」

 十八階建てのマンスリーマンションの十二階に移動、店員を先頭にエレベーターから二つ目の部屋にアイラと種田は案内された。間取りは1LDK、細長い玄関に続く廊下のサイドにキッチン、洗濯機は備え付けの物が利用できる、と店員が説明する。

 アイラはリビングで仁王立ち、三十秒間じっと嘗め回すような視線でぐるりと室内を見渡したら、急につき物でも取れたみたいに表情を和らげて、告げる。「私のスタイルに合わない。価格は魅力的だけれども、住みたくない部屋に我慢をして住むのは精神衛生上良くないと思うのよ。そうでしょう?」種田に返答を求めているようなので、首をかしげた。家族は続ける。「金銭的な余裕を自慢しているとは受け取らないでね、クリエイティブな仕事に金銭感覚を反映させたりしたら、私の仕事は意味を成さなくなるから。そうそう、忘れてた。私、建築のデザイナーをやっているの」アイラは漆塗りで金の装飾が施されたケースから横文字の名刺を取り、種田と店員に手渡した。建築のデザインか、種田は家族の近況は一切、報告を受けていない、連絡先はたまたま種田が数年間電話番号を変えなかったからであって、定期的に連絡を取り合わない二人の間柄である、しかも番号の交換は弁護士を通じてであった。疎遠とも言える間柄なので、職業すらも今まさに店員と同じタイミングで知る。

 過去の記憶が浮かんだ。

 スケッチブックに絵を描いていた姉がみえた。