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拠点が発展2-7

これらの要因が理由ではないが、大学入学を機に実家からは疎遠になっていた。元来、人へ興味は希薄であった、というだけのこと。季節や節目ごとに実家へ帰省はしない、むしろそういった行動は育てられた感謝と年中行事として帰らなくてはという義務と取り組むべき対象が渾然一体となり、個人的な判断の喪失にあるように思う。

 私は忙しく、両親への感謝は持てていない、人との関わりの中で執り行われる行事は当然人との接触を嫌うため、帰らない。悲しさという感情はどこに依存すればよいのか、私は家族や人にそれらを求めたりはしないのだ。

 見つめて、穴が開くほど眺めて、宙に投げて、光を透過し、寄り添って、眠る。人から離れると、人と比べる無意味さがひしひしと体をめぐる。カテゴリーに属せば規則を強要されるのは通常のことで、意思に反してそれらの属性に組しなくてはならない、という事態も大いに現実ではまかり通る現象だ。

 しかし、一定の距離を置けたら、離脱は、難しさは軽減されると種田は思う。そう、あまりにも相手の立場から物事を見すぎているのだ。与えられた仕事上の関係性以外の付き合いは真っ先に切り離すべき。

 何故決断を濁すのだろうか、出世に影響するから、あるいは明日からの仕事に差しさわりが生じるからか。ならば、愛想がよく、人付き合いに長けて、明るい性格の持ち主が、社会にとって有益かと問われれば、首を縦に触れはしない。タバコの減りが風にさらわれて酸素の供給が早い。

「ご希望の場所があれば、そちらまでお送りしましょうか?」鞄に書類をしまう店員が両手を合わせて手をこすり合わせる仕草が目に浮かんだ。必要以上の計らいは、サービスとはいえない。要求に応じてこそ、価値が保たれる。高額な支払いのアイラとは契約の締結で価値の交換は終了しているのに。

 窓を閉めて、種田はリビングに上がり、玄関に向かう。

「案内をしてくれるんでしょう?」背中に明るく軽いアイラの声が投げ掛けられる。不安定な天候みたいだ。いいや、晴天や雨、積雪が安定した状態とはいえないか、むしろ不安定が自然にとっては安定した状態なのかも。そうすると、アイラも安定しているし、私は不安定か。そう、私はほとんど対応を変えない、アイラの性格の一端が垣間見えた気がした。

 仕方ない、気づきに応じて、付き合うとするか。種田が九十度、向きを変え、顔だけをさらに九十度回し、アイラの傾いた顔に承諾のサイン、右手を下からしゃくるように着いて来い、という合図をぶつけた。