コンテナガレージ

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拠点が発展3-3

雪祭りを愉しむのはほとんど観光客だ。そういった意味では冬の記念に、会場に足を運ぶ物好きなお客ならある程度の集客が見込めるだろうな」熊田はやっと麺を半分平らげて言った。相田はグラスの水を飲み干し、各テーブルに備え付けの容器から水を注いだ。

「ただの空き地に会場設営を決めた運営側は、もちろん夏のフェスの土壌があってこそですが、それでも冬の開催に踏みきれた最後の一押しは何だったんでしょうね」鈴木は副菜のきゅうりを小気味いい音を立てて噛む。

 もくもくと相田は残りのスープに夢中だ、熊田は向けられた鈴木の疑問に答えた。「集客力を高める手法は、反対にお客の選択を狭めている。広く、浅く、多くの年代、男女問わず、もっといえば世界に向けて、そういった振る舞いは、お客の琴線に響かないだろう。誰かが持っているから欲しいのであって、皆が持っていたらそれは、普遍的ありきたりで新鮮さがない。求めるのは、手の届かない、だけれど過去に出会った垣間見た、かすかな記憶に引っ掛かる事柄。まったく知らないものには、恐れて手を出さない。様子を見て、間合いを計り、徐々に間隔を詰めて、欲しいと思うようになる。初めからその近づく時間を排除した手法が、その冬の野外コンサートなのだろう。過去に経験し、見たこともあり、見に行った、参加した、鑑賞したことはないが、なんとなく雰囲気は掴める。けれど、完全には想像が難しい。狭めた選択肢だ。ただし、奇のてらい過ぎ、その先に継続した集客を見込むなら、多用してはならないだろうな」

「はあ、食べた。もう、入らない」

「相田さん、今の熊田さんの話聞いてましたか」

「口はふさがっても耳はあいている」相田は熊田に軽く頭を下げる、爪楊枝がちょうど熊田の左肘で隠れていたのだ。「噂によると、あくまでも噂の範囲だが、来年のロックフェスは開催されない」

「聞いてないですよ!」鈴木の沸点が上がる。食事をしていた、署員の一斉射撃の視線。しかし、すぐに解放、照準ははずされる。

「だから噂だって、声が大きいんだよ」

「そうでもないさ」熊田は麺を啜って、残りの麺を胃袋に落とす。混雑し始めた食堂の喧騒に紛れて熊田は小声で言った。「臨港の広大な敷地にS駅やその周辺の集客を脅かす一台商業施設が計画されている」

「情報筋は?」鈴木も熊田につられ、囁くように聞く。

「喫茶店

「ああ、海岸沿いの。だけど、あそこは臨港から結構離れてますよ」

「馬鹿。情報が流れるんだよ、人が集まる場所には」相田は紙ナプキンを、手套を切って熊田の横から掴んで口元を拭いた。

「隣で大声出さないでくださいよ」