コンテナガレージ

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拠点が発展3-4

「お前が考えなしに質問ばかりしているからだ」

「どうやら暇じゃなくなるらしいな……」熊田は食堂の出入り口に焦点を合わせていた。入り口に背を向けた相田と鈴木が振り返る。きっちりと堅苦しい雰囲気が対面しただけでひしひしと伝わる、上層部の人間がわき目も振らず熊田たちのテーブルに駆け寄った。

「部屋はもぬけの殻でしたが、一人ぐらい連絡係を残す機転を利かす人物が、まあ、いるとは思えないか」上層部の男に一番近い相田の表情が見る見るうちにゆがみを形作る。「仕事です。港湾の造成地で遺体が発見されたので、捜査をお願いします」

「我々が取り掛かってもよろしいんですか?港湾内はほぼI市の管轄だという記憶があります」熊田は落ち着いて質問をぶつけた。男は無表情に変えて気分をリセット、大げさについて咳払いを言った。

「管轄の複雑さの面倒だからあなた方に依頼するのです。それに遺体の状態については詳細な情報は一切手元に送られていない、現場から直接上層部に届いた経緯からも、あまり好ましい状態とは言えないだろうな、暇な君らにはちょうどいい運動になるだろう?」男は用件のみを伝えると颯爽と踵を返す。

 ポケットに手を突っ込む上層部の連絡係はもう片方の手を数十メートルはなれた人物に呼びかけるように左右に手を振った。横柄さ、という気概は仕草や行動にも表れるらしい、こうもはっきり見せてくれるのは反対にありがたい、感謝の念すら抱いた熊田である。

 彼は指示を受けたにもかかわらず、一定のペースで麺を啜り続けた。

「上層部の新人の役目らしいぞ、俺たちへの仕事の押し付けが」相田は鼻で息をした。

「遺体の損傷が激しかったのでしょうか?」鈴木は腕を組んで、首を傾ける。食事を終えていた。食べているのは熊田だけである。上層部の人間が去ると、室内は明るさを取り戻したような、署員のざわつきが回復した。

「凍死か作業中の事故、後は長期間放置された死体が発見されたか、地中に埋まった死体が掘り起こされたか……」

「時間はたっぷりある、詮索は車内で話し合え。現場へ向かう」熊田は手早く楊枝をつまみ、立ち上がる。鈴木が見上げた。

「部署を空けっ放しにしますよ?」

「上層部も一度に二つの事件を押しけたりはしない」

「管轄で揉めなきゃいいけどなぁ」明らかに気乗りしない鈴木がだらりと両腕を垂らして席を立つ。

「権利を主張すれば、そちらに渡す」

 三人は食堂を出て、駐車場を目指した。綿のような雪がしんしんと空間を埋め尽くす。熊田の黒のセダンに乗り込み、一向は臨港沿いの空白地帯に車を走らせた。