「レンタルカー」海外の発音でアイラが話すとまた視線が集まる。「えっとね、ここから二ブロック北にお店があるね」
「私はいつ解放されるの?」種田は番茶を啜ってきいた。
「私の気分次第」種田が睨む。「冗談よ、じょうだん。黒人選手のことを言ってるんじゃないからね、それに剣道だっけ?面の上の構えでもないよ」
「ユーモアのセンスは最悪。何も言わない方がまだまし」
「そうやって、日本人はリスクを怖がる」
「リスク?あなたは試しているようには見えない。学習もしていない。同じ言葉を過去にきいた覚えがある」
「昔のこと覚えてるんだ。またまた意外」
「記憶はすべてストックしてある」
「私は捨てたわ。持っていても仕方がないし、思い出しても記憶を書き換えることしかできない。……黙っていても記憶は変わるんだけれどね」アイラは遠い目で入り口、種田の左端を眺めた。「二人には会ってる?聞くまでもないと思うけど」
「思ったとおり。その想像でほぼ正解」
「普通の家庭を思い描いた?」
「一軒一軒各家庭を回ったのかしら、どれも同じなんてあり得ない。そう理解に及べば、むやみな期待を抱く暇も無意味さも、無駄な労力に思える」
「よくそれで生きているわね。私が残されたら多分破綻していた」
「いいえ、あなたは重宝されたわ。望みに応えすぎない、フェールセーフがあなたの真骨頂」
「何でもお見通しなんだ」
「過去の記憶を繋ぎ合わせて導いた答え。間違っていても、勝手に人は見透かしたと褒めるでしょうけど」
「星占いのことを言ってる?」
「思い込みで記憶は変るということ。それらしい答えを無意識に箱に隠しては、誰かに開けて欲しい、と待ち望んでる。開かなかったら、開けやすいように摺り寄せる」
「ふうん。なんだか説法みたい」
「坊主が高尚だなんて幻想は昔も今も信じられていない。彼らが考えた論理ではないの、流れに乗って教えを説く。境地至ったのはただ一人、作り出した人物」
「話が宗教に及んだから、言うんだけれど」
「なに?」