「はい」
「今どこだ?」電話をかけてきたのは上司の熊田である。
「S市の中心街、正面がS駅です」
「車か?」
「はい」
「用事は済んだか?」
「いいえ、これから次の目的地に向かうところです。事件ですか?」
「そうだ、手が空かないのなら来なくていい。わかった、ゆっくりやすめ」
「行きます。現場は?」
「こっちは三人体制だ、人は足りている」
「電話をかけてきました、足りないと踏んだのではないのでしょうか」
「そうではない。もう、手が空いていると思ったんだ。だから、来るな。忘れてくれ」
「どちらです?」
「はあ、……I市の港湾だ」
「あら、偶然ね」アイラが高い声を出す、パンパンと二回拍子が打たれた。「いいわよ、私は。建設候補地のあたりで降ろしてもらえれば、万々歳」
種田は二秒ほど考えて、応えた。「いけます。約二十分後には到着できます」
「そうか。現場の目印は、臨港沿いを走ってくればパトカーが目に入るだろう」
「了解しました。向かいます」
「ああ」
「紳士な声だった。上司?」アイラは身をよじって尋ねた。
「そう。車は私が返す。多分、長時間の現場待機が予測される。端末があるし、タクシーなり何なりを掴まえて帰ってもらう」
「あーあ。ドライブは行きはよいよいだけか。残念」
「望みは果たした」
「あーっ!厭味って受け取ったでしょう?思い違い。ぜーんぜん気にしてないから」アイラは狼みたいに鋭い目で真実を語る。「本当に刑事なんだ、感心した」
「刑事らしさは微塵も垣間見せてはいない」
「それもそうか。でも、なんとなくそう思ったのよ」
ワイパーの稼動を一段階緩めて、天候の移り変わりを車内で把握する。外は雪の降りがぱったり止んだ。
彩られた華やかな町並みにどんどん別れを告げる。
節電を訴える割には消費電力の少なさを前面に押し出した装飾は減少しない。
生きていることがすなわち、消費であることを前面に打ち出せばいいのに。
散髪された街路樹を横目に、種田たちは明かりから離れた。