コンテナガレージ

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拠点が発展6-3

 強風は気まぐれに吹き付けて、また向かい風が吹き荒れる。

 赤いポールに四人は辿り着く、シート付近で止まり、戻ってくる警官の足跡がくっきり残されている。そのほかは、まっ更な雪に先ほど振り続けた霰の粒が一層、上乗せされてた。熊田は足を踏み出す前に、周囲にざっと目を光らせた。

 建物はほとんど建っておらず、見渡す限りの平原である。民家ともいえないあばら家が海岸沿いにかろうじて建っているぐらいで、海側には人工物が見当たらなかった。深夜にライトを当てる、もっと言えば車のブレーキランプだけでも相当目立つと思われる暗闇での作業を熊田は何気に想起した。嫌な予感は体内を這い回り、地上へアース。熊田の脳裏に経験に裏打ちされた数々の事件との遭遇が映し出される。鮮明で鮮血がおびただしく、悠々虫たちが闊歩、断末魔の形相に安らかな表情に反する胴体の離脱……。

 残忍な死体は体験の多さで克服が可能とは限らない。熊田は取り立てて死体への拒否反応が人一倍薄い。部下の種田もその部類だろうか、鈴木と相田は人並みの反応を断続的に訪れる体験により、かろうじて目をそらさずにいられる。仕事という意識も観察を可能にする要因のひとつだろう。

 長靴を履いた柏木の足跡を辿って熊田たちはブルーシートに近寄る。シートの周囲は踏み固められていた。積もった雪にシートの青さが移り、青白く、シートと雪の境目が不明確であった。ここまで近寄ってでしかわからない曖昧な境目。

「あけます」柏木がシートをつまみ、引き剥がした。

 女性の死体、頭部に直径三センチほどのくぼみ、薄く開いた両目、口は半開き、白い前歯が覗く、赤い頬、口紅も赤い、黒い髪は一本一本が細い、コートは全身を包む偏ったアシンメトリーの前面、暖かな感触の毛並み、細身のパンツ、裾につれて細いシルエット、左足だけ内側に膝が入りくの字を描く、靴はショート丈のブーツであった。

「殺人でしょうか?」鈴木がしゃがみこんで唸る。「見つけて欲しいといわんばかりの放置かあ。また、関連の事件なのかもしれない」

「関連の事件?」柏木がきいた。鈴木は即座に返答する。

「何でもありません、こっちの話です。それより、誰が見つけたんですか」鈴木と同年代の柏木のやり取りが熊田にはこっけいに見えた。時代劇で賢く育てられた名家の子息が母親や近親者に畏まった口調で自分の意志を訴える場面が過ぎった。

「通報があったんです、匿名で。交番の不在時に連絡用の電話からかけてきたようでした」