コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

拠点が発展6-4

「監視カメラは?」

「それがあいにく、予算の都合で交番には取り付けてなくって。繁華街の交番ではありませんから」酒に酔って警官に暴行を加える市民の証拠を収めるためのカメラは取り付けてはいない、ということだろう。

「詮索は後回しだ」熊田は状況を記憶に留めた。通常は種田の仕事である。「鑑識を呼んで、死体の検視結果を待つ」

「左足、柔らかいなあ」相田は鈴木の肩に手を乗せて死体をそっと眺める。

「重いです、相田さん」

「エックス脚、内側に膝が入ってる。相当な内股だな。男の内股は見たことない、とは思わないか?」

「筋肉に頼るんでしょう」鈴木は相田の手を払う。「二本ある足の骨のさらに外側の筋肉を使って体重を支える、だけど女性は筋力が弱いために骨で体重を支えるようとする、結果足の裏と内側の膝でバランスを取ろうとする」

「スポーツ工学みたいな見解だな。専門書でもかじったのか?」

合気道ですよ。昔習っていたんです、体重、重心の位置がずれた状態でバランスを取ると、それらを筋力で補うよう体が動き、不要な筋力と関節の変形が起こる。女性の場合は、ヒールの高い靴を履くので、状態の悪化が顕著。男でもバランスの悪さは同程度です」

 熊田の初見は、鈴木の見解に加減する意見はなかった。不思議なのは発見が前提のような死体を放棄するという不可解な行動に意識が傾く。額を打ち抜く痕跡は、拳銃かもしくは先の尖った物が刺さったことによると推測は容易い。

 鈴木が遺体に触れる、熊田に振り返り、外傷の有無を確認する同意を求め、熊田はそれに応じた。グレーのニットが捲くられる。白い陶器を思わせる肌に死に至らしめる痕跡は見当たらない、もちろん背中も調べたが、まっさらな肌を見つめただけであった。薬物等の摂取による、あるいは口から毒物を摂取した可能性も考えられなくはない。ただ、それは鑑識が行うことであり、熊田たちの領分ではない、彼はそういった役割を重んじる。

 甲高い風切りをぬって、ドアの遮蔽音が聞こえた。道から女性らしき人物が二人こちらに歩いてくる。一人は種田、もう一人は誰だろうか、ぼんやりと柏木が切り開いた道にそって歩く二人の姿がどこか似ているように熊田からはみえた。

「遅れました」種田が到着の挨拶。無表情である。