コンテナガレージ

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適応性1-2

「どう見ても、正規の出版物とは言いがたい」捜査用の白い手袋をはめる助手席の女性が低い声でつぶやいた。

「中は確認されました?」運転席の男は、さらに骨を伝達させる低音で山遂に問いかけた。四方から狙われている、冤罪にかけられる人はこういった圧力に屈してしまうのかも、彼はそんな風に半ば諦めがちに克明な想像を展開させて悟った。

「倫理的な問題に問われますか、僕は?」弱まった声量で山遂は質問を投げ掛ける。

「そういった心配はありません。バスに置き忘れた当人の不注意がことの発端です。拾った方が罰せられるという法律が施行されたなら、日本は罪人だらけになるでしょう」女性は端的にそして無感情にすばやく回答を明示。

「良かった」山遂は乾いた喉の潤いが気分の落ち着きによって再燃する。腕時計を見る、会議に遅れてしまう時間だ。「あの、私これから会議に出席する予定でして、帰ってもよろしいですか?」

「……亡くなった女性と面識があったというのは、山遂さんの思い込みかもしれなく、バスの女性とはあなたがおっしゃるほど近しい間柄ではなかった。つまり、見間違えていた可能性も多分にある、そう捉えます」ほっとした山遂に女性は思い出すよう、脳内の映像を手繰りよせるよう、論理的に事実を組み合わせて問いかける。

「バスの運転手に聞いてください、僕の意見と一致しますよ」

「鈴木、バス会社に連絡」運転席の刑事がリーダーらしい、指示が飛んだ。

「はい」

「種田、ガイドブックの出版社に書籍の有無を確認」

「はい」

「よろしければ、その公民館までお送りしますよ」運転席の刑事は、軒下から雨空を見上げるようにフロントガラスに降り積もる雪を後頭部を縮め視線を送る。

「はあ、だったらお言葉に甘えます。このままだと遅刻ですので」

「相田、パトカーに行き先を告げてきてくれ」

「了解」気の進まない声で相田が事情を伝えた。

 フロンドガラス越しに両手で丸を作る相田に合わせて車にエンジンがかかる。「ふうう、寒い」乗り込んだ相田が体を恰幅のいい体に似合わず、震わせた。

「公民館はどちらです?」運転席の刑事がミラー越しにきいた。

「臨港沿いの通りを左に」