コンテナガレージ

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適応性3-2

「どうも。意外と気が利くのね。ずぼらなのは、照れ隠しのつもりかしら」切れ長の目は、笑うと消えた。部長は左右に視線を送り、気を配る。公園内の人物の入れ替わりはない。大型犬が彼女に向かって吠えているぐらいだろう。

「七変化は欺くためですか、忙しいですねそちらも」部長の軽いけん制はしばらくの沈黙を生む。買い物袋を提げた近隣住民が前を通る。

「血縁関係が公になるのは避けたいですよね」白い素手に挟まる缶を転がす女性は前かがみの姿勢を正す、細長いバレリーナのような首がダウンの襟と冷気になびく髪の合間に伸びている。二人の顔は正面の、つかの間の休息をかみ締めるみたいに、真鍮の外灯と対話するように話を進める。熊田は新しいタバコに火をつけて、沈黙を破る。

「今回の要件を窺いましょう、空もだいぶ曇ってきました」

「取り返してほしいものがあります」

「信頼や純真な心は盗めない」

「あら、ロマッチックなことが好きみたいね。今回は、物質です」

「拳銃、宝石、現金、あるいは個人所有のPCかな」

「物理的なものは、今後価値を失うのに、奪取してまで手元においておくはずがないのはあなたもよく知っているはず」

「人攫いかな」

「ガイドブックを取り返して欲しいの」

「海外旅行を私は一度も体験したことがありません。外国の建物、景色、人物、食事に出会って、帰国するのでしょう、一時的なリセットは早急に回復して復元するのが落ち。何が楽しいのか、近隣で楽しめる場所をあえて探していないようにも思う。当然、場所に限らず楽しみは見出せますが」

「今日はおしゃべりが過ぎますね。もう少し自重してください。公共の場ですよ」老夫婦と大型犬は公園を出て行った。いつの間にか子供たちのはしゃぐ声は聞こえてこない。雪が降り始めて、視線を左右に漂わせる。どうやら公園は二人の独壇場らしい。細かな雪が追い払ったと部長は捉える。紫煙が立ち昇り、口からは煙と息の白い混合粒子が放たれた。隣の女性が、プルトップを開けてささやく。

「現在ガイドブックの行方が途絶えたまま、消息を立っている」

「捜索に手がかりが必要なのはご存知ですよね」

「所持者が死亡しました」

「そいうことですか。所持品なら遺留品保管室に眠っています、……手に入れる手段がないこともない」

「所持者の手元にはありません、どこかで紛失したようです、情報によれば」