コンテナガレージ

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適応性4-1

「ここまでが二週間前、十二月二十三日に起こった事件の概要です。何か意見があれば話してもらえませんか?」石造りの喫茶店、こぢんまりとしたカウンターのキッチン、足元にくすんだ緑色のストーブ、天井に悠々羽根が回転、駐車場を望む小窓からは几帳面に降り積もる雪が掻き集められて、かすかにアスファルトの黒がみえた。

 熊田は、この店の店員に事件のあらましを語り、解決の糸口を得ようと、店主が休憩で店を空ける時間帯を狙い訪問を敢行していた。隣には敵対心むき出しの種田も座る。店員がいとも容易く、事件の概要を聞いただけで事件を解決してしまうのが気に食わないらしい。

「雪原に放置された女性の死因をまだ聞いていません」店員、日井田美弥都はきっぱり物事を告げる。ただし、威圧感や厭味といったぶしつけな感情は含まれておらず、異質な雰囲気をいつもかもし出す得意な人物。「それに、質問に答えるとも言っていませんよ、私は」

「では、あらためて。お願いできないでしょうか」熊田は即座に美弥都の指摘に応じた。警察のプライドは持ち合わせていない彼にとって事件解決が最優先。

「……」美弥都は泣いているようにうつむく、愁いを帯びているためにそう映るのだろう。仕草の正体は二人の刑事の注文に応じた動作。コーヒーを淹れているのだ。匂いにつられて熊田がおもむろに上着の内ポケットからタバコを取り出し、一本を口に咥える動作を無意識に行った。途端にとなり種田の威圧的な目線を浴びて、はたと行動に気がつく。しかし、熊田は喫煙を継続。熊田は間を置いてから、そっと隠れるようにタバコに火をつけた。すると、コーヒーがカウンター越しに届く。

 手が休まる美弥都に熊田は攻勢をかける。「死亡推定時刻は発見前日の深夜零時頃から当日の午前二時までの間、外傷は額のみ、膝に数箇所青い打撲痕が認められましたが、傷は古く、死因とは無関係であるというのが鑑識の見方です」美弥都への問い掛け、話しかけは常に返答を今か今かと待機の焦りが迫り来る。彼女は必ず返事をもたらすとは限らない、不要な質問は聞かなかったと受け止めるらしく、お客だとしてもそれは例外ではないのだ。無断で彼女の領域内へ足を踏み入れることは叶わない。世間では短文による意思疎通と発信がもてはやされているが、美弥都の絶妙な距離感覚に熊田は親近感を抱く。

「死に至らしめた凶器は判明してますか?」シンクに移動する数歩を利用して美弥都が顔を上げ、説明不足を補う質問を、こじんまりした口で言った。