コンテナガレージ

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適応性5-2

「あなたの上にもまだ権限を持った人がいるようですね」立ち止まる。首を傾けたアイラが笑った。

「最終的な決定やプロジェクト、デザインの方向性を固める会合では、そうなりますね」

「私を招集してもあまり意味がないわね」

「どういう意味ですか?」

「右に習えの一様的なデザインを今回は排除しようと思うの、コンペではそういった趣向が求められたから。デザインには取り入れたけれどね」アイラは口元を引く。「大型の施設は十年が耐用年数、目新しさを失った施設へは、最後に日用品の買い物客が残り、流れに巻かれる年代は徐々に足が遠のく、あなたもそしてそこのあなたも老朽化したかつての商業施設よりも数ヶ月前にオープンした話題の、雑誌でも巷の同僚や友人たちの会話でも持ちきりの新しい開業施設を選ぶんじゃない?だから、不変さが求められる、日用品や食品の購入は開業のままの位置を初めから決め込んで建てるの。柔軟な思考を持ち合わせている上の方にはおそらくは届かない」

「それでは具体的なイメージはおおよそ固まっているんですね」

「いいえ」はっきりとアイラは否定する。遮断は海外の方式である。「テーマパークというような構想を抱いているんなら、間違いよ。空想の世界は思い込みがすべて。商業施設には当てはまらない、着ぐるみはただの張りぼて。想像力豊かな、前持った浮遊感と現実乖離は排除します」

 会議用のテーブルに鞄を置いて、手帳にアイラの発言を書き込んだ。上層部へアイラの考えを事前に伝えておければ、意見を擦り寄せる時間が短縮されると山遂は機転を利かせる。

 その時に会議室に一緒に入った女性秘書は大げさに短い声を上げて、出て行く。飲み物の提供を忘れていたことに気がついたのだろう。ただ、アイラという新進気鋭の建築デザイナーが瑣末な礼儀作法の末端を槍玉に挙げてまで、秘書の非礼を追求するはずもないとは思う。温められた空気で山遂の顔が火照る。

「雪は平均して一日どれぐらいの量が降りますか?」

「雪ですか?量ではなく高さ表すと、二、三十センチは降っているでしょうか」

「この辺りの人たちは車が欠かせない移動手段とお見受けします」悲哀を込めた瞳のアイラは雪の降下を見つめる。通常ならば照明をつけている時間帯であるが、遮光カーテンを開けているので、室内は薄暗さを感じない。