コンテナガレージ

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適応性5-3

「地方はどこも似たようなものです」

「バスの運行を始めているとメールで読みましたが、運行の状況はいかがでしょうか」アイラはテンポ良く話題を飛び飛び。

 遅れて山遂は語る。「敷地と駅の区間は信号の数が少なく、右左折の方角へは特定の車しか進みませんし、交差点内に右左折専用レーンを設けていますので、通行はスムーズです」

「交通の便は良さそうかあ」アイラは後ろ手に組んだ長い腕を今度は頭上で合わせて背伸びをする。踵が浮いた。「はあああ、なんだかこの部屋暑くありません?頭が回らない」

「右端の窓を開けましょう、換気と流れこむ風を天井のあったかい空気で滞留させます」

 窓を開けると、秘書が部屋をノック、木製のお盆を持ってお茶を運ぶ。湯飲みは二つであった。

「飲んでいいのかしら?」アイラがテーブルのひとつに視線を落として問いかける。

「どうぞ」

「紅茶と同じ茶葉なのに香りも味も異なるのね」

「お口に合いましたでしょうか?」秘書は半ば引きつった緊張の面持ちで言葉をつぐんだ。

「ええ、とっても」

 秘書は深々と二礼。アイラはお茶を啜りながら、山遂の開いた手帳をみていた。

「だめです、それは」

「手帳に予定を書いているのですね。どうしてですか、覚えられないのですか?」

「いえ、覚えられないというか。覚えられますけど、他の作業にかかりっきりですと、ついつい忘れてしまうので。決まった時間に手帳を見れば、次の予定を忘れずにいられる……、変でしょうか?」アイラの顔は得体の知れない彫刻を見つめて、作者の表現を悟ろう、読み取ろうしている。

「短期的なタスクと長期的を分けて保存はしないのか。取り出すときには困難。ううん、コードの絡まりみたいに無駄な行き来が発生、それによるドアの到達で迷ってしまうんだ、そうかそうか。取り出し口に色をつけて覚えてしまえば、引き出すのは簡単なんだけどな。繰り返しの訓練できちゃうのに。覚えてはいるんだけどね、全部」

 記憶の引き出しについての見解か?山遂は無難な回答に相槌を混ぜる。「はあ、私には難しい芸当ですね。不器用ですから」

「器用さは関係ないわ」アイラがすかさず言う。「難しいのは、何もしていないだけのこと」