コンテナガレージ

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適応性7-1

 赤い軽自動車の運転席に山遂が乗り、助手席にはくつろいで視界の悪いサイドウィンドーをぼんやり眺めるアイラ。

 山遂の秘書が公民館まで乗ってきた車両を借りている。天候は回復と悪化を交互に見せ付ける。天候の不順さはイギリスで嫌というほど日常に溶け込むまで染み付いた感覚、取り立てて騒ぐことも天候に気分を左右されることもアイラはとっくに乗り越えている。これが自然との付き合い方。

 パトカーと縦に並び紺色のバンが駐車されている、警察の車両と考えるのが妥当だろう、アイラはフロントガラスの光景に考えを当てはめた。 

 軽自動車は信号待ち。吹雪のような白い煙を巻き上げるトラックをやり過ごして、右折。通行の邪魔にならないよう山遂は道を逸れ、人が集まる平原の位置に合わせ、車を歩道に寄せて減速させる。

 エンジンを切ると、わずかな間を狙って静寂が訪れた。

「ここも建設予定地?」アイラは運転席でハンドルを握る山遂にきいた。突然、目を合わせたので彼の目は少々泳いだ、女性との接触が苦手なタイプとも思えない。公民館の女性には自然に滞りなく話せていたし。

「そうですねえ、おそらく」

「正確な情報を私は聞いていますよ」アイラは平原で動く人物に向けた視線をまた山遂に注ぐ。彼は慌てて、後部座席のバッグを引き取って、取り出した端末を起動、呼び出す地図データをアイラに見せた。

「赤く塗られている箇所が建設予定の敷地となっています」

「私たちの現在地は地図上では、どのあたり?」

「緑の点滅が現在位置を示しています。ですから、南西の方角がちょうど人が集まる場所ですかね」山遂は抑えた口調で下手から様子を窺うように恐る恐る付け加える。「あの、本当にデザインやコンセプトは決まっていないんですか?」

「何か問題でも」

「そういったわけでは。ただ、まあ、その期日に間に合うのかが心配でして、いいえ、決してアイラさんの仕事振りを評価していないのではなくって、つまり、その……」

「失敗したくない」

「は……い」山遂は遠慮がちに端末を受け取る。「アイラさんは、国や有名なクライアントを前に、ひるんだり、こわくなったりはしないんですか?」