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適応性7-2

「着地点を見誤っているように私は思えてならないの、そういった意見は目先のほんの数歩先の出来事や案件ばかりが目に飛び込んでも、見えていないように振る舞うことが寛容じゃないかしら」

「お言葉を返すようですが、上司を説得できなければ、すべてが動き出しません」

「その程度の提案だった、とは取らなかったのかしら。私なら即座に捨てて次の案を模索する。長時間、練りに練って考えたからといって、必ずしも評価と比例はしない。私は講釈をたれるために来たのではないのですが」

「これは、ついうっかり、その愚痴を漏らしてしまって、すいませんでした。ええっと、地図でしたよね?」

「それはもう拝見しました。それよりも、警察の動向が気になるわ」

死体遺棄の現場だとしても、その場所で殺されたわけではありません。お経を上げれば建てても問題はないと思います」

「そうではありません」アイラは窓を拭いて外を見た。「警察組織は分業制なのですね?」

「おそらくですが、あれは鑑識ではないでしょうか?」

「鑑識?ああ、科学捜査ね。だけど、どうして彼らが捜査の指揮を取らないのかしら?」

「捜査はまた別の警察、刑事の領域ですよ」

「一箇所に情報を集めて、方々に送信、各自のスペシャリストが分担された仕事をこなし、情報はまた中央、中枢に集まるか。情報が劣化しないのかな、無駄のようにも思える」

「警察の動きは、デザインと何か関連があるのでしょうか」

「いいえ、いや、関連がないとも言い切れないかな。すべては少しずつだけれど関わっている。あなただって、取り留めのない行動の一翼を担っているのはもしかすると無意識に取り入れた概念かもしれない。消費行動はまさにその顕著たる一例。すぐれた、画期的で、これまでにはなく、斬新で、一目ぼれしてしまう商品は、まあ、稀に登場するぐらいで世の中に溢れているものの大半は、広告によって、買っているのではなく買わされているの。あなたにだって趣味や好みがあるでしょう。そういった分野にはこぞって意識を働かせて、高額でも対価を支払ったりする。しかし、日々の細々とした消費にまで忙しい今日の時間を費やすだろうか。もちろん、経済的に余裕のない人ならば、低価格の商品を選ぶだろう。だけど、性能や機能が横並びならば刷り込まれたあるいはどこかで聞き及んだ商品やそれらの企業名から商品を手に取ってしまうの」

「警察からえらく発展しましたね」

「あなたが聞いたのよ、忘れたの?」

「すいません」

「謝ってばかりでも、この国では許されるのか……。便利な言葉」

 シートに包まれた死体が運ばれていった。死体は運ばれていないかもしれない、担架のふくらみはあくまでも予測だ。予測か……。アイラは首を窮屈に回してバンに乗せられる死体を最後まで見送った。