コンテナガレージ

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適応性8-1

「彼女を高く積んだ雪山から落として、額に刺さりませんかね?」後部座席の鈴木は顔を突き出し飛び込むジェスチャーを披露する。現場へ引き返す車内での一幕である。

「突起物の長さ、強度、落下する高さ及び、額を狙ったのなら的に当てる正確性が求められます」種田はそっけなく無関心そのもので鈴木の解答を一蹴した。

「お前の考えは、自殺かそれとも他殺か?」目をこする相田が口を開いた。熊田は同乗者の居眠りは咎めない、車内の暖気で相田の首が鈴木のほうへ傾いていたのをミラーで確認していた。

「改めて訊かれると、どうでしょうかまだ決めていません」

「なんだ、お前のさじ加減でひとつじゃないか」

「推理は必要です。ああっ、どうせまた、昨日も夜更かししてテレビ見てたんでしょう。相田さん、寝てましたよ、さっき」

「目を瞑っていただけだ」

「へえ」

「なんだよ」

「べつに」

「自殺の線は薄いと考えますが、いかがでしょうか?」助手席の種田が熊田にきいた。

「考え方が何通りもあるように思える段階で議論に熱を入れるのは、世間話で済ませる分には最適な暇つぶしだろう」

「僕は真剣に考えを言ったつもりです」鈴木の声がキンキンと鳴り響く。

「限りなく他殺に見せかけた自殺ならば、それを補助する人物の関与が必要だろう。また、他殺ならば何らかの意図、あるいは放置せざるを得ない事情によって雪原に死体を遺棄した。さらに、病死という可能性もまだ残されている」熊田の運転で臨港沿いの通りへ車が流れた。雪の降りは穏やか、時折日が差し込む。

「つまり、まだ手つかずってことだよ、鈴木」相田が諭すように言う。

「パッと見、他殺か自殺かの判別がつかない事件って最近続いてますよね?」鈴木は相田のとげとげしい問いかけを無意識に受け流して、つぶやいた。

「ショッピングモールからです」機械のように種田が即座に記憶を呼び出す。