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非連続性1-2

「はい。現場で女性の死体が発見されました。死亡推定時刻は昨夜の午前零時から二時までの間、死因は頭部、額の陥没した刺し傷が致命傷だと思われます。死亡時刻、死因等は鑑識の簡易な初見によるもので、正式な回答はおそらく数時間後にもたらされるでしょう。現場の入り組んだ管轄区域によってO市の管轄で死体が見つかり、I市が捜索の対象区域となり、捜査の主導をどちらが握るか、という無益な口論を行っていたところです」

「わかった」部長は微笑を浮かべて、種田の正確な棘のある回答を満足げに頷いた。種田の性質を知らない人前で彼女が話す姿は面白い、部長は密かに緊張と異質の笑いを愉しんでいた。

 部長は直線状の視界に収まる立ち入り禁止のテープとさらにその奥、海岸へ向かう道に停車する車を見ながら言った。「報告の目的は捜査状況の把握ならば、こちらの情報を二人のうちどちらかが把握していればいいのでしょう、山さん?」

「お前たちについて回るつもりはない」

「捜査権を渡してくれるのですね?」

「いいや、確認は取ってもらう」

「理不尽だ、歳は取りたくないね」相田が独り言をつぶやく。

「面倒なことになりますから、相田さんは黙っててください」鈴木がたしなめる。

「私が捜査に同行するのが互いに最適なんでしょうけど、まだパトロールの途中なんですよ。そろそろ署に戻らなくては……」若い警官が場の空気を和ませる努力。

「鈴木、端末の予備バッテリーを持ち歩いているな?」部長が鈴木に確認を求めた。鈴木は所持品を言い当てられたので、一瞬無表情になり、それから我に返っておかしさを感じる。

「……ええ、あ、はい」

「端末のカメラを作動させたまま、映像をそっちの柏木巡査の端末に送るんだ。映像を見て、そちらからの指示を直接仰げようにしろ」

「考えましたね」熊田が納得、首を二回縦に振った。

「山さん?」部長は意見の了承を山岸に求める。

「カメラが常に真実を映し出していたら成立するな。しかし、カメラの向きまでは変えられない」

「やましさはありませんから、わざとカメラを横に向けたりはしませんよ」鈴木が半ば怒ったように言い返す。

「だと、いいがな」

 雑音、パトカーに無線が届く。「三丁目交差点にて事故発生。近隣の警察官は至急、現場に急行せよ」

「柏木、運転しろ」

「はい、あっとその前に。端末の番号を教えてもらえますか?」

 鈴木と柏木が端末をつき合わせて、無接点通信を行う。「はい、来ました。ええと、どちらから送ります?」

「私からかけます」

「お願いします」山岸は運転席に回って、ドアに滑り込み、回転灯を鳴らして交通事故現場に走り去った。