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非連続性2-6

「何か不都合だったでしょうか?」

「詮索は構わない。ですが、その対処が面倒なので。知っていても知らなくても事件には何の影響もありません」

「そうですか……」山遂は家族思いなのだろう、育った環境から物事の基準を決めている。姉妹が顔を合わせていがみ合うことは考えられない。

「ねえ、レンタカーはもう返してしまったの?」アイラは周囲を視線を走らせた。

「あなたが乗ってきた車、ナンバーが違う。……消えてる」種田は海岸への道を眺めて、つぶやいた。

「冗談でしょう」

「ここを一度離れた時に盗まれたのかもしれない」

「盗まれた場合って車両代を支払うのかしら?いや、保険があるか」

「おめでたい」

「何それ、お正月ってこと?」

「浮かれて現状が見えていない」

「ああ、馬鹿にしているんだ」

「納得したら揶揄にはならない」

「種田、いい加減にしろよ。鑑識の情報を直接聞きに行くからすぐに乗れって、熊田さんが」鈴木がさっと窓を開けて呼びかけた。窓はすぐに引きあがる。

 刑事というよりも大学生のアルバイト、そういった印象が強い。あどけなさは海外の暮らしが長く、幼いアジア人の表情に見慣れていないため。かくいう彼女もアジアの血が流れているし、大半の遺伝子はアジアであるが、色濃くヨーロッパの血が反映されてもいたので、それほど子供に間違われる扱いは受けてこなかった。しゃべり方と顔立ちが瞬間的な信頼を私には感じ取るらしい、アイラは妹に戻した視線で呼びかけに応じるように促した。

 種田は気がついたことがあれば連絡をと、私たち二人に言い添えて、車に乗り込み、目の前から姿を消した。

「これからどうされますか?」山遂の気を利かせた配慮にアイラは応えるまでしばらく間をおいた。脳内である程度のウエイトを占める考えがスペースを確保しならがまとめ上げようとするものだから、行動が急激に抑制された。かろうじて上げた手のひらで時間を確保した。息を整える。立ちくらみの症状に似た体感。やはり、視界はかなりのエネルギーを消費するのだと改めて身をもって感じられたアイラである。

 アイディアの流失と突きつけられた想像を超える計画は、現存以上のアイディアを生み出せれば、解決するだろう。それにだ、アイラは思う。

 現実に計画着手の権限を勝ち得ているのは私。空想ならば個人的や仲間同士で褒め合えっていればいい。これはビジネス。……しかし、なんだろうかこの虚無は。胸にぽっかり、底の見えない空洞が埋まらない。人のアイディアを見てしまったのが、過ち。無気力の正体。越えようとはしない方が身のためだ。その道を歩かないようにするしか、やり過ごす手立ては皆無だ。逃げている、という声が聞こえた。それに対する明確な答えはうん、今はまだもてていない。計画は進行し始める、時間の猶予は残りわずか。アイディアは干渉を避けて再定義する。だけど、それとは別に、まったく新しいアイディアも走らせてみよう。退行、対策、履行。

 落とした視線をアイラは上げる、微笑。

 不安げな山遂に言った。「計画予定地を車で回ってくれない?」

「それは、はい、いいですけど。歩かないのですか?」

「一度イメージを壊すためよ、見せ付けられた画像の」

 面白い、どんな人が書いたんだろう、多分建築家ではないんだろうな。

 突拍子もないアイディアだったのは、経験のなさでもある。

 だけれど、建築知識の基本部分は備えていたな。

 日本に降る雪がイギリスに降ったとしても、イメージは再現されない。

 日本の北の地が呼び起こしたアクシデントがまた一つ、既存を崩してくれたらしい。

 アイラは一人駆け出して、乗ってきた軽自動車を目指した。