「はい」種田はデスクに座り、コーヒーを置く。
「事件に進展はあった?」
「盗聴の危険がある」
「そう、警察の電話を盗聴するのって相当な悪党よね。いいから教えてよ」
「言えない」
「絶対?」
「捜査情報は機密事項であり、他言は無用と言ったはず」
「記憶力はわりといいほうだから、覚えてる。じゃあ、マスコミに流す情報なら教えられる?」
「あなたの仕事とは無関係」
「仮に事件の解決が長引いたら、発見現場の開発着手は遅れる。だから、私にも関係はあるの」
「まだ山遂さんと一緒?」
「運転中よ。声がききたい?」
「スピーカーにして」
「いいわよ、切り替えた」
「山遂さん、商業施設のデザインコンペで最終選考に残ったクリエイティブ・クリエイションという事務所をご存知ですか?」くぐもった雑音に混ざり、山遂の声が聞こえる。
「はい、最終選考で残った三組のうちの一社です。日本の企業を応援する社内の雰囲気に一時、そちらの会社に採用の風が吹きかけたのですが、これまでの商業施設とは異なる、まったく見たことのない初めての体験が今回のコンセプトでしたので、最終的にアイラさんの案を採用したのです」
「亡くなった女性、樫本白瀬はクリエイティブ・クリエイションの社員です」
「ええっ、それでは僕の顔も知っていたかもしれない」
「そういうことになります。あなたは知らなくても相手は知っていたことは十分にあり得ます」種田もスピーカーに切り替える。缶コーヒーを開けて、一口飲んだ。
「見ていたってことは好意を持っていたか、つけて狙っていたかのどちらかね」アイラがいう。
「僕を見ていたってことですか!?しかし、顔をつき合わせたり、会話を交わしたりはまったく……、ほぼ資料を眺めてました」
「だからよ。見ていない隙を突いて、見ていたのよ。堂々と振り返ってね」